『アイラの女王』という二つ名を持つアイラ島最古の蒸溜所がボウモアだ。

最近では90年代蒸溜のニューリリースが出てきたら、非常に高額になっている。

90年代最後の最後の99年蒸溜でも熟成は23年に達するため、無理なからぬことかもしれない。


ボウモアは黄金の60年代のあと資金難に落ち入り、ウイスキー不況の80年代には暗黒期に入るという、かなりの浮き沈みを経験している。

1980年代終わりにサントリーが資本参加し、その後全株式を取得をして買収したのが1994年だ。

個人的にはサントリーが資本参加して、モリソン・ボウモアの末期から品質は飛躍的に向上してると思う。


ウイスキーを飲み始めた当時、99ヴィンテージの原酒が中心と思われるテンペストのファーストバッチでボウモアにはまった私は、その後飲んだ60年代蒸溜のボウモアにウイスキー観を変えられた。

それを皮切りに短熟、長熟あらゆる60年代のボウモアを飲んだが、60年代蒸溜の短熟が持つニュアンスと、当時同程度の熟成年数だった90年代に共通のものを感じたものだ。


もちろん違う部分もあるのだが、90年代は黄金時代の輝きに近いものを取り戻したと認識した。

当時は1万円もしないボトルも多く、安かったこともあってかなりの数の90年代のボウモアを買ったし、Barでも片っ端から飲んだ。

その経験があるため、ボウモアは私にとっては好きな蒸溜所を挙げたら必ず上位に出てくる。

今でもその時のストックがあるため、家でも開けることが多く比較テイスティングもしやすい蒸溜所になっている。


ウイスキーは比較しながら飲むのが一番理解が深まるし、違いも感じやすい。

以前も90年代のボウモアを比較テイスティングした記事を書いたが、今空いている1995ヴィンテージのボウモアがなくなるタイミングで改めて比較テイスティングをしてみた。

そのテイスティングを記載する。



【1993ヴィンテージ】

1993ー2010 パーフェクト・ドラム 16年 53.8% バーボン・ホグスヘッド ウイスキーエージェンシー


90年代の中でもトップクラスの人気ヴィンテージである1993。

そういえばこのボトルもそうだが、93ヴィンテージはシェリーカスク熟成のボトルを飲んだ記憶がないほどイメージがない。

ウイスキーエージェンシーもパーフェクトドラムで4本、プライベートストックで1本の93ボウモアをボトリングしているが、それも全てバーボンカスク熟成だ。

これはそのうちの1本で熟成年数が16年、アルコール度数は53.8%のもの。


93で人気はキャンベルタウンロッホ向けのケイデンヘッドや、ウイスキーエクスチェンジのマスターピース、後はジョン・マクドゥーガルのゴールデンカスクだろうか。

それに対しウイスキーエージェンシーの93ボウモアはスペシャル感は少なく、評価もそれほど高くない印象がある。

しかし、個人的にはこれらが本領を発揮するには、ボトリングから30年くらいの時間が必要なのではないかと思っている。


開栓し少し時間がたったため、時間経過がどのような影響をあたえるているか。

それを確認するため、改めてテイスティングしてみた。


【テイスティング】

重厚でフルーティー、グラスから立ち上る香り立ちは非常によい。

重厚なヨード香、ミントのフレーバー、パイナップルやグレープフルーツ、強い潮の香り。

強めのビートスモーク、少しタールっぽいオイリーさ、淡くパッションフルーツ、バニラクリーム。

フレッシュな白ブドウやライチの果汁、甘味のあるホワイトチョコレート。

芯のある93らしい酒質で長くスモーキーな余韻。


60年代や70年代始めの短熟にかなり似ているが、ヨードの香りが強い。

対して露骨なトロピカル感は少ないため、それを期

待しすぎすると肩透かしを食う。

しかし、アイラモルトらしい強さのあるウイスキーで、強烈な個性を持っているヴィンテージだと思う。

長熟するとトロピカル感も強まりそうな気はするが、残念ながらもうこのヴィンテージの樽は蒸溜所にすらないのではないかと言われている。


そうなると、長期の瓶内変化がどういう影響をあたえていくのかに期待をしたくなる。

もう少し雑味やパワー、ふくよかさがあると、70年代頭のセスタンテに迫ってくれたのではないかと思う。

数年後の瓶底など、開栓後の変化から他のエージェンシーのボトルの開けどきを見ていきたい。


【Verygood!!!】



【1995ヴィンテージ】

1995ー2015 クーパーズチョイス  20年 46% バーボンカスク ヴィンテージ・モルト・ウイスキー社


サントリーがフル稼働して生産を始めたヴィンテージ。

オフィシャルでもヴィンテージ表記のあるボトルが出ていて、ボトラーからのリリースも93とは違いシェリーカスクのものが結構ある。

このボトルは約20年熟成のバーボンカスクの加水ボトル。

バーボンカスクの方がトロピカルな味わいはストレートに出てきやすいと思ったが、このボトルに関してはそこまでそれは強くは出ていない。

数年おいて飲みきるタイミングだったので、瓶底のウイスキーを改めてテイスティングしてみた。


【テイスティング】

ミントやハーブのフレーバー、少しすいた紙感があり、加水で伸びやかではあるがパワーは少し落ちている。

バニラ感や炭っぽさ、井草、ライチやソーヴィニヨン・ブランのような果実味。

スモーキーさはあるがヨード感は強くなく、ピノ・ノワールでつくる白シャンパーニュ、ブラン・ド・ノワールのような赤い果実味がアフターにはある。

また少しザラっとしたテクスチャーがあり、私が95ヴィンテージらしさと感じる雑味がある。

90年代のボウモアのバーボンカスクの典型的な味わいだ。


93に比べてヨード香が抑えられていて、緑の草っぽさがありソーヴィニヨン・ブランを彷彿させる。

少し紙感が出ているのも特徴だが、赤い果実味が下支えしていてさほど気にならない。

このブラン・ド・ノワールの赤い果実感が突き抜けてくると、ウィームスがリリースした2本のトロピカル・ボウモアのようになるのだろう。


また、このヴィンテージは特にシェリー樽では悪い意味ではなく雑味がありワイルドな印象がある。

それが長熟にさしかかると、21世紀のブラックボウモアのようなボトルが生まれる可能性がある。

これから数年間は、アイラフェスで出るシングルカスクに95が出てきたら要注意ではないかと思う。


【Good/Verygood!! 】



【1998ヴィンテージ】

1998-2018 19年 バット 48.8% ウイスキーエージェンシー&ウイスキーエクスチェンジ 


マイルドで甘味が強い印象がある1998ヴィンテージ。

このボトルはスキンダー・シンとカーステン・エールリヒという巨匠二人が詰めたボウモアで、バット熟成と表記され48.8%でボトリングされている。

スペック買いして少し放置して開けたが、開栓直後はあまり印象に残らない味わいだったが改めてテイスティングしてみた。


【テイスティング】

かすかに白粉のようなパフューム、ザラメのような甘味、少しミントやライムの皮、草っぽさ。

ピリッとしたアルコールの刺激、麦芽の甘味、餡のようなニュアンス、ヌルっとした昆布水。

バニラ、オレンジ様の柑橘、グリーンペッパーやクミン様のスパイス。


甘味が強く、果実感やトロピカル感をあまり感じない、麦芽の甘さ系のボウモア。

これは個人的にはフルーティーとは呼ばない気がするが、海のニュアンスがありちょっとタリスカーみたいな感じがある。


ウイスキー・エージェンシーはこのヴィンテージのリリースが多い印象があるが、リキッドライブラリーなどちょっと格下のシリーズが多い。

切手をあしらったスタンプというシリーズで、主力ラインナップからリリースがあったが、それは良かった記憶がある。

これが出たとき、バットの熟成かつアルコール度数が50%を切っていたのもあり、パーフェクトドラム的なボトルを想像した。


しかし、今のところ期待したスペシャルな感じはあまりない。

またウイスキーベースのレビューを見ると、サルファがあるような記載も複数あった。

私が開栓したのは少し時間が経っていたのもあるのか、そういうオフフレーバーはない。

二人の巨匠が選んでいるからには、スペシャルな何かがあると信じたいが現段階では感じられない。


ある日突然変わるようには思えないが、引き続き様子をみていきたい。


【Good/Verygood!!】



2000年代のボトルもボウモアらしい良さがあるが、2002~2006年くらいのものは個人的に苦手なオイリーさや紙っぽさがあるものが出てくる。
長熟してもそれは消えない印象があり、実際評価の高い2002のボトルを飲んでも個人的にはそれが気になってしまった。
しかし、それも一部のボトルだけかもしれないし、最近のボウモアはまた良くなっている印象がある。
90年代の蒸溜だけがスペシャルではないのかもしれないし、現にこのボトル達は期待値に達していないのもあり評価は低めだ。
この年代のボトル全てがスペシャルなわけではないという事だろう。

もっと後になり振り返ると、この年代のヴィンテージはどう評価されているのだろうか。
その途中経過としてのメモ書きとして、今後も追って行きたいと思う。