シャルドネは『白ブドウの女王』と呼ばれている、フランスはブルゴーニュ地方原産のブドウ品種だ。
モンラッシェ、コルトン・シャルルマーニュなどのブルゴーニュはコート・ド・ボーヌ地区の高級白ワインは、このブドウでつくられている。
またシャンパーニュにも使われ、シャルドネだけでつくったシャンパーニュはブラン・ド・ブランと呼ばれる。
これまた高級なシャンパーニュが多いが、その代表格はサロンだろうか。

また、シャルドネは世界中で栽培されている代表的な国際品種だ。
しかし、突出した個性がなく地域の特色にそまりやすいブドウといわれている。
それもあるのか、ワインを飲み始めた頃の私には少し難しい品種だった記憶がある。
分かりやすさでは柑橘感や青さのあるソーヴィニヨン・ブラン、ペトロール香と言われるオイリーさがあるリースリング、アロマティックでオリエンタルなヴィオニエなどの方が上回っていた。

しかしある時シャルドネのうまさに目覚めて、今やセラーにある白ワインのほとんどはブルゴーニュのシャルドネだ。

そのきっかけをつくったワインは、コシュ・デュリという作り手のワインだ。
コシュ・デュリは世界最高の白ワインをつくるといわれる、ブルゴーニュはムルソーの生産者だ。
そのコシュ・デュリが作ったそのワインは、高級な柑橘や洋梨やクリームチーズを使ったタルトのような至高のワインだった。
インパクト的には、初めて1960年代蒸溜の長熟のボウモアにマンゴーやトロピカルを感じたときの感覚に似ているといえば分かりやすいだろうか。
感動的に美味しくて、覚醒させられたようなそんな体験だった。

しかも私が飲んだのはシャルドネでは格的には一番下、ACブルゴーニュと呼ばれる広域なブドウでつくることが認められているワインだったのだ。
当時の私の知識だと、ACブルゴーニュ=安いというイメージがあり3,000円くらいで買えるという認識だった。
仮にそれより3倍高くても、これがその価格で飲めるなら他のワインを飲む必要がないんじゃないか? と思うくらいすごかった。
しかし、検索してみると、当時でさえネットショップでは約4万円で売られていて、他の作り手のグラン・クリュ(特級畑)よりも高かった。

そりゃそうなるわなと思い、コシュ・デュリを買うことは諦めた。
ちなみに一度ワインショップの店頭で見かけたコシュ・デュリのムルソー1級は、畑は忘れたが18万円で『大特価』と書いてあった。

たがそれをきっかけに俄然シャルドネに興味が湧いて、いろいろなワインを試しまくった。
飲んでるうちに、ACブルゴーニュといっても、選ばれなかった村名格のブドウを使うようなものがある事が分かった。
それこそコシュ・デュリも、ムルソーの自前の畑で取れて村名ムルソーに使わなかったものでACブルゴーニュをつくっているらしい。
並の村名や一級畑はもとより、特級畑でも太刀打ちできないはずだ。
しかし、それはコシュ・デュリに限らない。

ブルゴーニュのドメーヌは規模が小さいため広域に畑を持たないのか、若木から取れて村名に使わないものをACブルゴーニュとして安く出す作り手が多い。
なので、クオリティが高いのに安いワインの筆頭格が、そういうブルゴーニュ・ブランではないかと思う。

そんな作り手の中で特に気に入ったのが、このベルナール・モローだった。


ベルナール・モローは、ブルゴーニュはコート・ド・ボーヌのシャサーニュ・モンラッシェに拠点を置くドメーヌだ。
インポーターのセールで安く手に入ると3,000円強だったので、特に2017ヴィンテージはよく飲んだ。
翌年の2018も飲んでは買い足し、また買い足しして一時期はうちの家飲みシャルドネの定番キュヴェだった。

しかし、2019ヴィンテージから少し価格が上がったのと、インポーター在庫が少なくなっていたので買っていない。
4,000円を越えてくると気安く開けにくくなってくるし、ちょうどその当時シャサーニュ・モンラッシェの別の好きな作り手の一級畑が、同額ぐらいというクレイジーなオファーがあったため、そちらに全力投球したためだ。

しかし久しぶりに見たセールのリストにベルナール・モローのブルゴーニュ・ブランの新しいヴィンテージがあったため、4,000円後半と高くなってはいたが3本注文した。
そのうちの1本を開栓して飲んでみた。

【テイスティング】
パイナップルヨーグルト、ホワイトグレープフルーツや青リンゴの果実味、チーズクリーム。
ペパーミントを入れた蜂蜜、文旦の肉厚な皮のマーマレード、バター。
火打石をなめたような骨格のあるミネラル、バニラのコク、しっかりめの酸、余韻にはアプリコットや固い桃などの果実味。

このヴィンテージもクオリティが高く、2017や2018よりも樽のリッチさが強い印象で、並の村名を凌駕している。 
だいぶ価格はあがってしまったが、今までがクオリティに比べて安すぎたのだろう。
しかも2020や2021はブルゴーニュは収穫が激減したと聞くので、ある意味仕方がない。

しかし、店によっては7,000円前後にまで跳ね上がっていて、いかにクオリティが高くてもその価格ではさすがに厳しい。

だが、まだ2017から2019までが市場には残っていて、この機会に3,000円台で買える安いものが2本残っていてる店で2本とも購入した。
2020が特別というわけでもないと思うので、もし試したい方がいればそちらから飲んでみるのを勧めたい。
その価格なら、ウイスキードリンカーも好きなバーボン樽系のバニラや、アプリコットや桃っぽい果実味が味わえるお勧めのキュヴェだ。
一番フレーバーのイメージが近いのはウイスキーフェアがボトリングした、1977のトマーティンだろうか。
ただ、ワインなので当然しっかりと酸がある。
しかし、手軽にブルゴーニュ コート・ド・ニュイの魅力が味わえる、格以上の素晴らしいブルゴーニュ・ブランだと思う。