フランスの誇る高級赤ワインの生産地といえば、ピブルゴーニュ、ボルドー、そしてローヌだろう。

ブルゴーニュはピノ・ノワールという品種単一でつくるワインで知られ、ボルドーはカベルネ・ソーヴィニヨンやメルローを中心にブレンド(アサンブラージュ)してつくられる。
それに対しローヌはメインとなる品種が地域により異なるが、北部ではシラー単一、南部ではグルナッシュを中心としたブレンドとなっている。

南ローヌはまたの機会にするとして、北ローヌの中でも特によく知られる地域が、エルミタージュやコート・ロティだろう。
エルミタージュはウイスキー・ファンにとっては、グレンモーレンジのタン・レルミタージュ・フィニッシュ(Tain L'Hermitage Finish)でその樽を後熟に使っていると言えばピンとくるだろうか。

そのエルミタージュにおいて、6世紀もの永きにわたりワインをつくっている名門生産者が、ジャン・ルイ・シャーヴだ。
シャーヴの最高峰であるエルミタージュは、様々な区画のブドウを緻密に組み上げてつくる長命なワインだ。

シラーでつくられるシャーヴのエルミタージュの赤ワインは、特に熟成させたものは感動的にうまい。
それゆえ、それなりに値段が高額で、最近の値上がりもあって今や一本3万円はする。
それでもすぐに売れてしまうワインだし、クオリティを考えたら全然高くないと認識されているのだろう。

高額ゆえに私にとっては気軽に家で飲むようなワインではないが、シャーヴはドメーヌもので使われなかったブドウを使い、お値打ちなワインもつくっている。
それがジャン・ルイ・シャーヴ・セレクションで、以前は買いブドウも使っていたため、ネゴシアン(ウイスキーのボトラーズのようなもの)あつかいだったが、最近はほぼ自社のブドウでつくっているそうだ。

シャーヴはエルミタージュの魔術師とも呼ばれ、ドメーヌものは緻密に組み立てて構築されるため、使われなかったブドウも良質だ。
そのため、そのブドウでつくっているセレクションものも相当うまい。
なにより1/3くらいの値段で買え、『ドメーヌは偉大なワイン、セレクションではおいしいワインを』というポリシーを掲げている。

とはいえ、エルミタージュは結構な価格だし、飲み頃が少し先なので開けたらガチガチに固いことも多い。
もっと気軽にシャーヴのシラーの片鱗が味わいたいなら、このサン・ジョセフがおすすめだ。

サン・ジョセフはエルミタージュと同じ北ローヌのAOCで、広大な面積でつくられるため品質にバラつきはあるが、価格も抑えられていることが多い。
シャーヴはそのポテンシャルに目を付け、サン・ジョセフでかなり大規模にブドウをつくっているらしい。
ドメーヌもののサン・ジョセフもつくっているが、そこで使われなかったブドウでつくるのが、セレクションもののキュヴェ・オフルだ。

価格は3,000円強で買えるシャーヴがつくるシラー100%のワインの最安値がこれだ。
だが、シャーヴだけあって丁寧なつくりで下級キュヴェでも手抜きがなく、シラーの魅力やシャーヴの世界観が十分に堪能できる。
また、エルミタージュに比べると長くは熟成しなそうだが、その分飲み頃が早い。
開けたてが少し早くてもすぐにほどけてきて、いつ開けても楽しめる。

超人気インポーターであるフィネスが輸入しているが、フィネス扱いのブルゴーニュのように瞬殺はされない。
それゆえ、試飲してバックヴィンテージが買えるのもうれしいし、これは試飲会で飲んでまとめて買った2014ヴィンテージものだ。
家で何本か飲んだが最後の一本を開けてみた。

【テイスティング】
コショウのスパイス感、ブラックオリーブ、キノコっぽい熟成感、タバコ、少しスモーキーな味わい。
プラム、ブラックチェリー、クランベリーなどの熟しているが酸味の残る果実味、枝付きレーズンのようなドライフルーツ感も出ている。
ミネラルが強く、淡く獣臭、鞣し革、カカオ。
墫の強さやタンニンはきっとあったであろうが、溶け込んで砕けている。

サン・ジョセフで8年以上が経っているため、相応の熟成感が出ている。
他のヴィンテージより熟成が早いのは、ヴィンテージの弱さと買いブドウも多少使っている時期だったのもあるかもしれない。

しかしその分、醤油系の味わいにも馴染むため、煮物などの家和食にもあわせやすい。
この日は晩御飯が魯肉飯だったため開栓したが、スパイシーさや甘さ、熟成した感じや野性味がよくあった。

最近のこのキュヴェは自社ブドウ100%でつくっているようなのでより堅牢だし、2015以降は北ローヌはいい年が多い。
うちの家飲みシラーの定番キュヴェで複数のヴィンテージを多めにストックしているので、順番に開けている。

グレンドロナックのような、スペイサイドよりは少しワイルドな濃いめのシェリー樽熟成のウイスキーが好きな人は気に入りそうに思う。

気軽に楽しめ、家の食事が豊かになるおすすめのシラーだ。