『幻のウイスキー』そう呼ばれる、今となってはほぼ見かけないウイスキーがある。

多くは既に閉鎖され、再開の見込みがないウイスキーであることが多いだろう。


閉鎖から時間が経てば経つほど、出会える確率は低くなっていき、レア度は高まっていく。

なので飲み始めた時期によって、珍しいものとそうでないものが人によって異なるのではないか。


私が飲み始めた10年とちょっと前、『三大ファントム(幻)』と呼ばれていたのは、キンクレイス、ベンウィヴィス、レディバーン(エアシャー)だった。

幸いにも全て飲んだことがあるが、どれも飛び抜けておいしかった記憶はない。

中では、ダンカンテイラーの長熟キンクレイスはダンカンテイラー長熟味でフルーティーでうまかったが、当時似たような味は結構あった。


だが、当時三大ファントムと呼ばれていたからにはレア度に加え、比較したらの話だが味もよかったのだろう。

当時かなりレアだった、モファット蒸溜所のグレンフラグラー、キリーロッホなどは三大ファントムとは呼ばれていなかったからだ。


そして、比較的最近飲み始めた人だと、ブローラ、ポートエレン、ローズバンクが三大ファントムだ、という人が多いのではないだろうか。

この三つは同じディアジオ系列の閉鎖蒸溜所の中でも、少し特別感がある扱いを受けている。

奇しくも、ディアジオの三大ファントムは全て復活に向けて動き出している事からも、スペシャルだと思われていた事を示している。

同系列でもインバネス三兄弟といわれた、グレンアルビン、グレンモール、ミルバーンだとこうはいかない。


しかし、私が飲み始めた頃は、ブローラもローズバンクもポートエレンも、それほど珍しくなかった。

ニューリリースでボトラーから80年代(ローズバンクは90年代も)蒸溜なら結構出てきていた。

ブローラやポートエレンも80年代蒸溜なら2万以下で、ローズバンクも90年代蒸溜なら1万強で普通に買えた。


思うにニューリリースがあったか否かが、その人の考えるレア度に大きく影響するのだろう。

私の記憶だとディアジオファントム以外にも、ロッホサイドもキャパドニックもリトルミルも、既に閉鎖されていたがニューリリースがかなりあった。

今から思うとかなり値段も安かったし、それなりに買えたし飲んだ。

ゆえに、私と同時期に飲んでいた人だと、それらのウイスキーをあまりレアだと思っていないだろう。


しかし、レア度は抜きにして味わい的に閉鎖が惜しいと思える蒸溜所はいくつかある。

もしそのうちの三つをあげるとしたらコンバルモア、バンフ、そしてブローラだろう。



ブローラは北ハイランドの銘酒、クラインリーシュが老朽化により隣に新蒸溜所を建てた事から生まれた。

役割を終えようとしていた古い蒸溜所はブローラと改名され、開始時期にはいろんな説があるが1969年頃から1983年まで、ピーテッドタイプのウイスキーを製造する。

それがブローラで、旧クラインリーシュとも新クラインリーシュとも違う味わいの酒として、独特な存在感を放っている。


北ハイランドの太い酒かつピーテッドとなると、個人的にはどストライクで、今までいろいろなブローラを飲んできた。

さまざまなブローラを飲んで個人的に思うのは、オフィシャルとボトラーズではずいぶん味が違うということだ。

個人的には私の考えるブローラ味は、オフィシャルの味わいだ。


ただ、ダグラスレインだけは例外で、1970~1972年というブローラのグレートヴィンテージをリリースしているため、オフィシャルと同格以上だという認識がある。

それ以外のボトラーは、ほぼ蒸溜が1981など1980年代の蒸溜であることも大きく影響しているのだろうと思う。


オフィシャルのリミテッドリリースで、ブローラ30年が初めて出たのが2002年だが、これにもブローラのグレートヴィンテージの原酒が使われている事になる。


ブローラ30年はその1stから4thぐらいまでが特に味がよい印象があるが、3,000本あるからか私がウイスキーを買い始めた頃でも探せば店頭に在庫があった。

リリースから10年近くたっていた時期だが、当時としては高額な38,000円前後で売られていた。

安いときは3万円くらいだったと聞いた事があるが、今にしてみるとあり得ない値段だと思う。


私の手元にも、当時買ったまだ未開栓の1stと2ndが1本ずつある。
ディアジオモエヘネシーが入れた正規輸入品だ。
いずれか1本は、『子供が成人したときに一緒に飲みたいウイスキー』として保管しておきたい。



その後もブローラはオフィシャルでは毎年リミテッドリリースがあり、どうやら2017年の16thまで続いたようだ。

その間に徐々に値段は上がっていき、最後の方は私が買った値段の10倍くらいになっていたと記憶している。


私が買ったというか買えた最後のオフィシャルブローラは、2011年ボトリングの10thで目白の田中屋の正面の棚の左上の方に並んでいた。
例によって、栗林さんに『迷うんだったら買った方がいい』と背中を押してもらい、買った思い出がある。
この10thはアウトターンが1,500本と半減していて、使われている原酒のヴィンテージもおそらく1978年以降になっていると思われる。
何度か飲んだがやはり1970年代前半の原酒とは味わいが違った記憶がある。
1970年代前半との違いを飲み比べたいので、これまた保管して子供が成人したときに一緒に飲みたいと思う。


現在、ブローラは蒸溜が再開されて樽詰が行われ、熟成が始まっているというニュースを見た。

子供が成人する頃には、もしリリースがあれば新生ブローラの15年ものや18年ものが飲めるかもしれない。

しかし、ブローラは長熟かつハイプルーフ、70年代前半蒸溜というのが揃ってこそ、特別な味わいになっているというのが私の考えだ。

果たして新生ブローラの中熟と比較した時に、それは実証されるのか、それとも覆されるのか。

今からその時が来るのを気長に楽しみに待ちたいと思う。



いくつかあった1980年代のブローラも、もはや手元にはダンカンテイラーの1981の一本のみになってしまった。

1981年ですら今から41年前となり、ブローラもすっかり遠くになりつつある。

新生ブローラも、私が愛するブローラと同じような味わいになってくれたらいうことがないのだが。


※ダグラスレインのOLD&RAREの1972は残念ながら空き瓶だ。

素晴らしい味わいに感動して空き瓶を頂き、普段はウイスキー棚の一番上に飾ってある。

またいつかこのような素晴らしいブローラに巡り会う日が来ますように。