歴史と病というテーマそのものとも言えるのが感染症。

古くは伝染病という言い方もしていました。

 

感染症は人間の歴史に大きな影響を及ぼしてきました。

 

例えば小・中学校の歴史の時間に学ぶ奈良・東大寺の大仏。

教科書では聖武天皇が仏教の力で国を治めようとして、その象徴のひとつが東大寺の大仏なのだと書いています。(鎮護国家)

 

コレ、厳密にはあまり正しくありません。

 

聖武天皇は別に仏教に心酔していた訳ではなく、仏に加護を求めるしか術がなかったといわれています。

そう、得体の知れない感染症が流行したからです。

 

疱瘡(天然痘)ではないかと考えられていますが、感染症の正体は今なお特定できていません。

ただ、天皇を支えるべき身近な人たち(例えば藤原氏・藤原4兄弟)が次々と感染して死んでいきました。

 

人から人へ感染するらしい病は魔物(鬼)がもたらす仕業と考えられ、聖武天皇は奈良の都(平城京)を捨てて、恭仁宮⇒紫香楽宮⇒難波宮と御所を次々に移動します。

 

政情不安と相まって、仏に流行病の鎮静化を念じ、その具現化として東大寺の大仏や各地の国分寺の建立を推進したと考えられています。

 

 

▲奈良の大仏には感染症の流行が大きく関わっている

 

 

そして人類初のパンデミックともいえる現象の最初が中世ヨーロッパ。

ペストの大流行です。

14世紀~15世紀にかけて(日本の鎌倉後期~室町時代)北イタリアから広がったペストは西欧人口の3分の1を死滅させ、農奴不足を引き起こしました。

 

ペストまもた感染症という意識が当時の人にはなく、神の罰とか悪魔の仕業だと考えられて教会に救いを求める人が増加したといいます。

 

ペストによって敗血症を起こして皮膚が壊死して黒ずむ様からペストは黒死病と呼ばれて、人々を恐怖のどん底に陥れました。

▲ペストにより手足が壊死して黒くなる。黒死病の由来

 

ペストによる農民の大量死によって西欧では農奴解放が進み、近代社会の礎ができたというのは歴史の皮肉としかいいようがありません。

 

 

 

感染症による歴史影響はペスト流行から100年後にパワーアップしました。

ヨーロッパ人が中南米大陸に疱瘡をはじめとするユーラシア大陸の感染症を持ち込んだのです。

 

疱瘡(天然痘)をはじめとする感染症はしばしばアジアやヨーロッパで流行したので多くの人々には免疫がありました。重症化しにくいのです。

 

しかし、新大陸のインディオには免疫が全くなく、スペイン人やポルトガル人がこれを持ち込むと、瞬く間に大勢のインディオたちが感染して大量死しました。

 

アステカ帝国やインカ帝国滅亡の背景に免疫のないインディオたちの感染症による大量死があります。

 

特に小さな島に住む免疫のないインディオには深刻で、カリブ海の島々の多くは島民すべて死に絶えたところも続出しました。

 

ハイチなど現在のカリブ海諸国に黒人が多いのは死に絶えたインディオの代わりにアフリカから黒人奴隷を白人たちが連れてきた結果で、その末裔たちが現在住んでいるのという訳です。

 

 

そして20世紀。

第一次世界大戦下で起きたパンデミックがスペイン風邪。

 

免疫のない全人類に襲い掛かった新型インフルエンザです。

 

スペインという名がついていますが感染源はアメリカ合衆国。

米軍兵士がヨーロッパ戦線に持ち込み、あっという間に世界に広がりました。

 

第一次世界大戦の戦死者が推定1,500万人に対して、新型インフルエンザの死亡者は推定6,000~8,000万人と戦争の犠牲者の4~5倍強という強烈なものです。

 

 

▲大正時代の東京。スペイン風邪で全員がマスクをしている

 

 

このスペイン風邪に匹敵する勢いになりかけたのが最近の新型コロナ感染症。

2023年までの推定死者数は700~800万人と見られ、スペイン風邪の10分の1程度の死者数に抑えることができました。

 

ワクチン開発が比較的早くできたことで感染拡大を止め、死者数を抑え込むことに成功したといえます。

 

奈良時代に感染症が拡大したため日本全国に仏教が広まり、

中世ヨーロッパでペストが流行したため農奴解放が拡大しました。

新型コロナ感染症の拡大によりリモートワーク・リモート勤務が広まりました。

 

パンデミックは人間社会に何らかの大きな変革をもたらす契機となるのです。

 

「人類は感染症を克服した。」

 

疱瘡(天然痘)を撲滅し、感染症はすでに深刻な脅威ではないと言った矢先に新型コロナ感染症はやってきました。

 

スペイン風邪に続く新型インフルエンザや突然変異化した細菌やウィルスなど、人類と感染症の攻防の歴史は今後も続きます。

 

現在は日本で流行しはじめている人喰いバクテリア(溶血性連鎖球菌)をはじめ、変異株の新型コロナ、エボラ出血熱をはじめとする高致死率の感染症も増え続けています。

 

世界が小さくなった今、遠い国や地域で起こった感染症は猛烈な勢いで全人類に蔓延しいく性質を持っています。

 

新型コロナ感染症に次ぐ、パンデミック襲来に私たちは備えなければならないのです。