私がまだ若い頃(26~27歳)、中高と一緒だった同級生の女の子と用事があって久しぶりに会いました。
貧乏くじに当たって、同窓会の幹事みたいなことを引き受けさせられたのです。
当時、彼女は幼稚園の先生をしていたのですが、持病がもとで退職を余儀なくされ、暇だから同窓会の幹事を主体的にやってもいいよ、ということでした。
「本当にいいの? だって病気治ってないんでしょ?」
私がそう訊くと、彼女は笑って
「持病って言ってもね、アトピー性皮膚炎だから大丈夫だよ。」
という答え。
アトピー性皮膚炎・・・よく耳にするアレルギー系の皮膚炎。
私は「そんな病気なら問題ないか」と気軽に考えていました。
彼女と久しぶりに会った時は夏でした。
ふと彼女を見ると夏だというのに彼女は手袋をしています。
私が何で夏なのに手袋をしているのか? と尋ねると彼女は少し困惑した顔で
「びっくりしないでね。見てみる?」
といいなから、手袋をはずしました。
そこにはボロボロの皮膚に部分部分に血や漿液が滲んだカサカサの象の皮膚のような状態の手がありました。
「これね、ステロイド外用薬の長期使用による皮膚障害なんだ。」
彼女は私にそう説明しました。
彼女はもともとアトピー性皮膚炎あったのですが、炎症を抑えるためステロイド軟こうを常時よく塗っていたとのこと。
幼稚園の先生という職業柄、どうしても手にいろいろな負荷がかかり手だけは強力なステロイド軟こうを長期間塗り続け、ついに副作用が爆発して
"手がお化けになった"のだという。
ステロイド外用薬は魔法の薬で、塗るとウソのようにアトピー性皮膚炎がサッと消え去り、健康な状態の皮膚に戻るのだそうです。
「でも、手だけでしょ? そのうち治るんでしょ?」
私が軽い口調で訊くと、彼女は少し涙ぐんで言いました。
「すぐには治らないよ。長期間にわたって最強のステロイド使ったからね。」
「それにね。手だけって言うけど、手ってすごく重要なんだよ!」
彼女が言う手の重要さなんて、当時私は全く認識がありませんでした。
「付き合い始めてさぁ、男って最初に何すると思う?」
彼女の質問に私はキスと答えると、
「あんたはバカか? いきなりキスする男はドラマの中だけだよ!」
と苦笑。
そう、キスする前の行動として必ず男性は女性の手を握るというのです。
何となく手を握って、手をつないで、相手の好意を確かめてからキス等の行動に移るのです。
「初対面でこんな化け物みたいな女の手を握る男はいないから・・・」
寂しそうに彼女はそうつぶやきました。
さらに彼女はいいます。
何も男女関係のためだけに手がある訳ではないと。
握手。
人は何気なく好意や友好の印として握手することが多いといいます。
"手は目ほどにその人を語る"
握手すると、ゴツゴツした大きい手、滑らかな優しい手、小さくて可愛らしい手・・・・手を触ることで何となく、その人となりが推測されるのです。
「私の場合、手がお化け状態で触った感じが気持ち悪いよね!」
「あんた、今この状態のあたしの手と握手したくないでしょ⁉」
彼女にそう指摘されて私は何も言えなくなってしまいました。
手がそんなに重要な部位ということを私はそれまで感じたことはありませんでした。
結局、彼女は自分の手を人前に見せられる程度にまで回復するのには5年以上かかったそうです。
手なんて多くの人があまり気にしないところですが、意外に重要なのです。
特に女性は手を大切にした方が良いかも知れません。