人が生きていく上で欠かせない存在。
それが家族や友人、親しい知人ではないかと私は思っています。
ただ、最近増えてきていると言われているのが孤独死。
人生の最後を誰にも看取られず、一人寂しく死んでいくのは何ともやるせません。
そんな孤独死が私の近くで起きたことがありました。
今から22年前、長男がまだ乳児で妻がおんぶしていた時のことでした。
当時、私たち夫婦は高層階の賃貸マンションに住んでいて、エレベーターホールを挟んだ隣の入居者が高齢男性であることは知っていました。
都会暮らしの慣習でやたらに隣人に声をかけない不文律もあって、その高齢男性の姿を見ただけで直接、会話することはありませんでした。
ある日、仕事から帰って来ると妻が私に聞いて欲しいことがあるといいます。
エレベーターホールを挟んだ隣人の高齢男性を最近、見かけないというのです。
しかも、エレベーターホール一帯に何とも言えない異臭を感じる時があるとも。
私は冗談半分で
「高齢男性の一人暮らしだから、家で突然死して腐っているんじゃないの⁉」
と言うと、妻は
「一人暮らしじゃないと思う。娘さんか誰か若い女性を見かけたことがある。」
と言いながらも、何かおかしい感じがすると訴えます。
それじゃあと、私は高齢男性の部屋のドアの前まで行ってみました。
少しドブのような臭いは感じましたが、強烈ではありません。
初夏だったので、生ゴミを出し忘れて玄関にでも放置していたのだと思いました。
電気メーターは結構なスピードでグルグル回っていたので
「電気を使っているなら、生活しているなぁ」
と判断し、妻に「取り越し苦労だよ。大丈夫、生活しているよ。」と気にしないように言いました。
それから2カ月ほど経って真夏になり、新聞配達の人がただならぬ異臭を高齢男性の部屋から感じたため警察に通報。
結果、死後半年近くが経過した孤独死だったことが判明しました。
死臭というのは何とも言えない強烈なものです。
事件性がないか警察が一旦、部屋から遺体を運び出したにも関わらず、もの凄い臭いが部屋から出ていました。
妻はあまりのことに絶句。
私のいい加減な「生きている、生活している」発言にクレームがつきました。
遺体発見から数日後、この高齢男性の家族と見られる若い女性(といっても40代ぐらい)とその夫らしき人たち数人が部屋に来ていました。
「何だ、あのお爺さん家族がいるじゃないか!」
天涯孤独な人で孤独死したのだとばかり思っていた私は驚きました。
彼らは亡くなった男性の部屋の片づけに来ていたのですが、死臭が染みついたものをゴミ収集所にそのまま出して立ち去ったため、ゴミ収集の人たちが
「何だ? この臭いは!」とパニックに陥っていました。
死臭の染みついたモノを平気でゴミ収集所に出すような家族です。
亡くなった高齢男性と軋轢があったであろうことは容易に想像がつきました。
家族がいても、うまくいかないで一人暮らしをする高齢者がいるという現実をその時はじめて私は知りました。
もっと近所に注意するべきだったかも知れないのですが、都会は人の入れ替わりが激しく、やたらに近所付き合いをするのを忌避する傾向にあるのも事実です。
孤独死や孤立死は都会を中心に益々、増加していく気がしてなりません。
ちなみに、孤独死で強烈な異臭を放っていた部屋は事故物件ということで格安家賃になったようで、異臭騒ぎから2カ月後には韓国人の夫婦が越してきました。
妻は孤独死があったことを言うべきではないか、と言っていましたが、外国の方ということもあって控えさせました。
でも何か感じることがあったのかも知れません。
韓国人夫婦は越してきて2~3カ月で部屋を出ていき、そのあと来た中国人男性も数カ月で部屋を出て行きました。
格安の賃貸マンションは孤独死、自殺、中には殺人事件の現場になったものもあるといいます。
そうゆうのは事故物件として表示しなければならない決まりがあるようですが、誰かひとり入居すれば、その後はもう事故物件表示しなくていいという抜け道があるそうです。
高齢化が進む日本社会。
特に都会で増える孤独死について私たちはもう少し真剣に考えないといけない時代になってきていると感じます。