私の心臓手術まで一週間を切った。
僧帽弁形成手術の死亡率は全国平均で1%以下。
私が僧帽弁形成手術を受ける病院の死亡率は0.25%。
心臓手術の中ではスタンダードなもので比較的安心して受けられる部類のものだ。
ただし、これはあくまで確率の話。
大型旅客機の墜落率は0.0009%と墜落しないハズだが、日航機事故のようなことが起きれば99.9%の確率で乗客はほぼ全員死ぬので、気休めにしかならない。
手術中に予期しない事が起きれば心臓にメスを入れている以上、直ちに命に係わることになるのは明白。
だから、万が一のこと(実際の確率は400分の1)に備えて家族に遺言を残すことにした。
(以下、私が口頭で家族に話した内容)
妻、長男、次男、みんなに対しては、ありがとうという感謝でいっぱい。
私は寂しがりで、ひとりで生きていくことが苦手な男。
良い夫、良い父親であったかどうかはわからないが、みんなは私の心の支えとなってくれた大切な存在だ。
まだまだ死ぬつもりは微塵もないが、私が万が一の時は冷静になって自分たちの為すべきこと、進むべき道を歩んでほしい。
次男へ
親父が亡くなっても、お前が私立大学に進学するぐらいの貯えはあるから、変に家計を気にして進路を変える必要はない。
勉強して、良い大学に進学できるよう励んでくれ。
偏差値とか大学名とかにこだわる必要はない。
大切なのは自分が将来、どんな仕事をして生きていくつもりなのかを意識して大学・学部は選んでほしい。
お母さんは難病を抱えているので、できる範囲で手伝いをしてほしい。
長男へ
世の中に対して生きづらさを感じているようだが、それはあなたの個性だ。
大学は卒業し、長続きするような仕事を選んでほしい。
やりたい仕事がなければ、長続きできるような仕事をするように。
お母さんの病は年月とともに悪くなる傾向があるから、支えてやってほしい。
もちろん、自分のことを犠牲にしてまでやることはない。
妻へ
万一、私が亡くなっても住んでいる家を失うことはない。
貯えもそこそこあるので、子どもたちを大学へ行かすことは問題ない。
いざという時の備えもあるので、心配はない。
だが、貯えだけでこれから先、長い年月の日々の暮らしを賄うことは厳しい。
パーキンソン病で体の自由が利かない中、大変だろうが最低限の生活費は少し稼ぐ必要があるかもしれない。すまない。
君と結婚してケンカもしたし、不自由させたこともあったが、私は君がいないとダメなようだ。
自分の手術で怖気づいてしまい、持病で精一杯の君に救いを求めてしまった。
君の前ではいつも自信に満ちた、頼り甲斐のある夫を演じてきていたが、君も薄々気づいている通り、私は臆病な小心者です。
死ぬなど微塵も思っていないが、万一の時に困惑しないよう言い残しておく。
それでも困ったことがあったら高齢だが、私の父に相談してくれ。
以上は万一のことなので、私が不慮の事故で事故死したりした時も同じだと考えておいてください。