~5月12日 仕事風景~
「さて、今日からはこういう日程で動いてもらおうか」
俺は社長から4枚にまとめられたスケジュール表を眺めた。
どうも面倒そうなスケジュールだな、と心の底から思った。
正直、こんな風に毎日動いてたら体がおかしくなりそうだ。
・・・・・だから尊敬する。
人前で元気に振る舞い、決して弱音を、弱い部分を見せないタフさを持っていなければならない職業。
そう、アイドルという職業を。
「今日から新しい子が入るからな。その子のプロフィールを読んでしっかり把握しておくんだ。それが・・・・・プロデューサーの仕事だからな」
「はい。もちろん分かっています」
新たに、プロフィールの紙を2枚渡された。
俺はアイドルを裏で手助けする、プロデューサーという仕事をしている。
日陰者の俺にはこういう職業が向いているのだ。
俺は失礼します、と一礼して社長室から出た。
今日は社長の言うとおり、新しいアイドル志願者の子が来る。
俺は今までプロデューサーなどではなく、プロデューサーのサポートという、かなり日陰にいた。
だが、この仕事にやりがいを感じてから・・・・・つまり、真剣に取り組み始めてからは、いい業績を残して、少し昇進した。
俺にはそこまで喜ばしい事でもないが、みんなに期待されているという事なので、真摯に受け止めておく。
「さて・・・・・そろそろかな?」
俺は会社の前・・・・・Colofulプロダクションの前で待つ。
約束の時間は1時。
今の時刻は12時55分。
残り時間はプロフィールでも読んで暇を潰す事にしよう。
・・・・・外でこういうの読んじゃいけない気がするが。
「えぇっと・・・・・名前は、粗島朱音(そしまあかね)か」
俺は写真で顔と名前を覚えた。
とりあえず、名前と顔だけ覚えておけばいいかな。
あまり外で見るものでもないし。
俺はプロフィールを小型バッグにしまうと、ちょうどいいタイミングで彼女はやってきた。
「あ、Colofulプロダクションの方ですか?」
そこには、アイドル志願者というだけあって、可愛らしい見た目の女の子が立っていた。
写真で見るより相当可愛らしい。
それはそうと、俺は彼女の答えを返す事にした。
「そうです。Colofulプロダクション・アイドルプロデューサーのものです」
「へぇぇ、そうなんですか!!今日からここでアイドルの練習をさせていただきます、粗島朱音と言いますっ!!」
けっこう、元気のある子だな。
一つ一つの言動に力強さを感じる。
俺は「よろしく」と一言挨拶を返し、会社を指差した。
「とりあえず、立ち話は難だから社内に入ろうか」
「はいっ!!」
俺は今日の目的である、社内案内と社内に入った。
※
「わぁ・・・・・少し狭いですけど、綺麗な社内ですね!!」
社内を歩きながら、俺は彼女と会話する。
「まだ、この会社も大きくないからね。狭い分、綺麗にするのも楽なんだよ」
「そうなんですかー。あたしは掃除が苦手なので、いくら狭くても綺麗にできません・・・・・」
「え?そうなの?」
「はい・・・・・そんな女の子はだめですよね」
何か落ち込んでいるので、俺は励ました。
「まぁ、仕方がないんじゃないかな。掃除が出来ないのもうまくやるコツを掴めてないだけだと思うし」
「うまくやる・・・・・コツですか?」
「うん。どんな物事にも効率よくやることによって何倍も得するし、何でもできるようになる。ようは、要点だけ抑えればいい」
「要点だけ抑えるですか。・・・・・あれですね。えっと・・・・・テストと一緒ですね!!」
「そんな感じだな。俺はそうやっていままで成功してきたからな」
「すごいですね!!あたしも見習いたいです!!」
うん、最初の方にしてはなかなかいい展開じゃないだろうか。
うまくコミュニケーションもとれた。
これも、さっき言った要点だけ抑えるというやつだ。
雑談している間に、社長室に着いた。
俺はドアを2回ノックし、「失礼します」と一声かけてからゆっくりとドアを開けた。
朱音も一言、「失礼しますっ!!」と緊張気味に大きな声で挨拶した。
社長は入ると突然、大きな声で笑い出した。
「はっはっはっ!!元気のいい子が来たな」
「あ、はい!!あたし元気だけが取り柄なんです」
「うむ。元気があるというのはいい事だ。これからの活動にも期待できるよ」
「が、頑張りますっ!!」
俺は苦笑気味に笑い、自己紹介を始めた。
「俺は今日から君のプロデューサーを務める事になるから、今後よろしく」
「本当ですか!?あたし、あなたがプロデューサーならいいなぁ、と思っていたんです!!」
「本当?ありがとう」
俺は不器用ながらも、感謝を示す。
「そして、私はこのColofulプロダクション社長の城谷広大(しろやこうだい)だ。よろしく」
「城谷社長、よろしくお願いします!!」
「うむ。それでは、明日から頑張ってくれたまえ」
「はい!!」
俺は「失礼します」と一声かけて朱音をつれて社長室から出た。
通路で俺は用件を思い出して、朱音に話しかける。
「あぁ、そうだ。今月の予定表を渡すよ」
そういって、俺は小型バッグから予定表を取り出し、朱音に渡した。
「わぁ・・・・・あれ?最初の3日はレッスンの時間が少ないですね」
「ん?あぁ、まだ持ち曲がないからな。明々後日には届くはずだ」
「俺は予定表を指差しながら説明する。
「なるほど!!あたしだけの持ち曲かぁ・・・・・楽しみです!!」
「だな。俺もまだ聞いてないし、楽しみだよ」
朱音がどんな曲を歌うのか楽しみだった。
そして、Colofulプロダクションの入口の前に着いた。
「それじゃあ、また明日」
「プロデューサーさん、さようなら~!!」
元気いっぱいに手を振る朱音が見えなくなるまで俺は手を振り返した。
「おぅ、あの子はお前の担当になったのか」
「あ、黒山プロデューサー」
気付くと、後ろに黒山プロデューサーが立っていた。
黒山プロデューサーは俺の先輩プロデューサーである。
「あの子がどのくらい上にいけるか楽しみだな」
「そうですね。きっと黒山プロデューサーとも争う事になると思いますよ」
「ふっ。そのときは同じ事務所だろうと、勝たせてもらうよ」
「俺もそのつもりです」
「それじゃあ、期待してるよ。新人プロデューサー君」
黒山プロデューサーは手を上げて、クールに去っていってしまった。
プロデューサー同士も争っているんだ。
アイドルは表で戦い、プロデューサーが裏で戦う。
そして、総合的に勝っている方が、人気を掴み取れる。
俺は朱音を日本一のアイドルにしようと決意した。
世界一は・・・・・日本一になってからだ。
大きすぎる目標でもないし、小さすぎる目標でもない。
これくらいがちょうどいいかもしれない。
そんな目標を持つ俺の名前は・・・・・言わなくてもいいか。
だって、俺は。
目立つ事を嫌う、日陰者だから。