あっという間に終戦の日になった。8月に入ってやっと梅雨が明けたので、あっという間に広島原爆忌が来て、長崎原爆忌が来て、そして終戦の日になった。コロナの感染と猛暑の中で夏祭りもなく、送り火の大文字を勝手に点灯してしまう集団もいて、今年の夏は一段と気が滅入る。
視聴率が全てになっている最近のテレビでは、戦争を考える番組は作りにくいらしい。民放はもう特集ドラマを作らなくなった。何だかんだ言っても、最後の砦はNHKか。今日は二つ、注目番組がある。
一つは、原子爆弾の研究に駆り出される若き科学者を描いた「太陽の子」。主演は柳楽優弥で、弟役は三浦春馬だ。予告編を観たが、痩せているのにびっくりした。もともと細身だし、役作りなのかもしれない。
だが実はここ数年、激痩せしているという心配の声が出ていた。今思うと、心身の疲労が蓄積していたのではないかと悔やまれる。その役柄がまた、彼の行く末を暗示させるようで泣ける。他にも手堅い演技派が多数出演していて、見応えがありそうだ。
もう一つは、そのあと9時から放映されるNHKスペシャル「忘れられた戦後補償」である。難しそうな話だと思わないで観て欲しい。この戦後補償問題は昭和の戦争、特に太平洋戦争がどういうものだったのか、その本質が現れているからだ。のみならず、現在進行中のコロナ問題への対応に、その構図がそのまま現れているからである。
日本の戦後補償は民間犠牲者を除外している。兵士は戦場へ行って苦労し、命も落とした。一方、国民は銃後の守りで戦場とは無縁だったのだから、補償がなくても仕方がない思うかもしれない。しかしそれは違う。
日本は太平洋戦争開始前、昭和13年に国家総動員令を施行して以来、全国民を戦争に駆り出した。戦場も銃後も関係なく、全国民が実質的に戦闘員だったのである。銃後の国民は日々、繰り返しそう聞かされただけではない。実際、様々な法律によってそう仕向けられた。
日中全面戦争が始まった昭和12年には防空法を制定、防空演習への参加を義務付けた。かの有名なバケツリレーである。そして空爆を受けても逃げるのが禁じられ、その場に止まって火を消すことが義務になったのだ。そもそも日本軍は、アメリカ軍による空爆の威力を過小評価していた。
この危機感の薄さ、相手戦力への過小評価、それと対になっている自己への過大評価と油断、傲慢さ。これが戦場の兵士のみならず、銃後の国民をも有り得ない窮状に追い込む結果となったのである。新聞には「焼夷弾は手で持って捨てろ」という記事が載っていた。
参考「空襲から絶対逃げるな」トンデモ防空法が絶望的な状況をもたらした
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/52580
その無謀さがはっきり現れたのが、初の本格的都市空襲となった昭和20年3月10日の東京大空襲だ。油の塊である焼夷弾が雨あられのように降り注ぐ中、それでも防空法に縛られた国民は火を消そうとした。まさに銃後の兵士になったのである。
参考 東京大空襲の翌朝、政府が何と言ったかご存知ですか
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/54614
2007年3月、既に平均年齢74歳になっていた東京大空襲被害者と遺族たち131人が、国家総動員法によって実質戦闘員にされたにもかかわらず、一切の補償を受けられないことについて、訴訟を起こした。空襲被害者による初の訴訟だった。
その意図は「東京空襲が国際法違反の無差別絨毯爆撃だったことを裁判所に認めさせ、誤った国策により戦争を開始した政府の責任を追及する」ことだった。私にとって衝撃だったのは、裁判所がいわゆる受忍論を展開したこことである。「戦争被害は国民が等しく受忍しなければならない」というのだ。受忍!
しかも軍人は補償を受けているのだから、要は民間人だけが受忍せよということだ。民間人犠牲者には何の補償もしないということは、全国民を巻き込んだ戦争の実態を隠蔽することになる。そして忘れられるのを待っているのだろう。
国民はいくら犠牲になっても仕方がない。この論理は戦後も一貫して続いている。つい最近も、原爆投下後の黒い前による被爆者を認めるという地裁判決に対し、広島県が控訴した。驚くしかない。しかも、よりによって広島市がである。背景に国の圧力があったのは明白だ。これを認めることは戦争責任に直結するからである。
水俣病などの公害犠牲者も人生を奪われたが、国は経済成長のために無視しつづけた。原発事故の被災者も、なるべく救済したくないという態度が見え見えで、自主避難者の支援は打ち切られた。
そして今GoToキャンペーンを始めるにあたり、ある政府高官は「何人死んでも選挙には影響しない」と言い放った。そもそも自民党の中には、「国民主権なんてトンデモない」という人間もいる。こういう人間が当選し続けていることもまた、戦後処理がなされなかったからである。
色々と腹が立つ終戦の日だが、今夜は7時半から11時までNHKを観よう。