ちょっと懐かしい昭和の思い出話
(サブタイトル)
田舎のお風呂は、とにかく「五右衛門
風呂」である。「五右衛門風呂」につき
る・・・。
あの伝説の泥棒、石川五右衛門にちなんで命
名されたらしいが、それが正しいのかは定かで
ない。夕方に近づくと毎日、「風呂焚き」の指令
が出る。それは、ほとんど祖母からであった。
祖母は、釜の掃除は済み、水は入れてあるから、
焚きつけて風呂を沸かせと命令する。
その命令は、まず兄に下される。そして、さ
も当然のように弟の私に引き継がれるのである。
本来ならば、疑問に思って良いはずなのだが、
当時は素直に命令に応じていた。
しかし、これが、なかなか面倒くさい。焚き
つけの新聞紙と良く燃えそうな杉の木あたりを
押し込む。パイプマッチのお箱から一本マッチ
を取りだし火を点ける。なかなか火が点かない
と竹でできた送風機で空気を送る。なんと呼ば
れていたか忘れたが、竹に穴を開けただけのも
ので空気を送っていた。あんまり強く吹き続け
ていると少し気が遠くなるので注意しなければ
ならない。
たまーーーにであるが、祖母が水を入れるこ
とを忘れることがある。そんな時でも普段と変
わらず、風呂焚きの儀式は当たり前のようにと
り行なわれる。さあ、大変だ!「何かいつもと
違う」と感じた時にはもう手遅れだ・・・。釜
は水が入れてなく、真っ赤にギンギンに熱しら
れて、手のつけられない状態になっている。祖
母に知らせると「絶対に水を入れるな・・!」
と指示が出る。まるで自分が水を入れることを
忘れた事実を棚に上げる発言である・・・。
なんでも自然に冷まさないと穴が開くらしい。
五右衛門風呂は、入るのが非常に難しい。湯
に浮かんでいる木の底板の真ん中を要領よく踏
まなければならないのである。真ん中を踏まな
いとすごい熱い思いをするのだ。そーっと、そ
ーっと真ん中を踏むのだ。そして肩まで浸かる
と今度は、背中をそーっと付ける。熱かったら
火傷しそうな思いをする。ぬるいと又、困った
ものだ。大きな声は叫ばなければならない。
「焚いてーーー!」
ただただ身体の芯から温まる・・・。温泉ブ
ームの現在、お風呂好きのブームの走りは、五
右衛門風呂から来たことは間違えない・・。