僕の「ICHIBANN」物語20
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パリ-サンマリノ、これは今では僕のお気に入りのルートの一つだ。
パリからA6で南に向かって、およそ450キロでリヨンを通過、
そこからスイス方面にそれてシャモニー、
モンブラン・トンネルを通過してイタリア国境、アオスタを抜ける。
さらにミラノを遠巻きにして、ボローニャまで走る。
総走行距離およそ1100キロ、一息に走ると半日はかからない。
今回の走行、これが今後の自分の中での尺度となるから、
無理はせず、また極端に止まることも無く、通常の給油、食事、トイレと、
ルーティンのピットストップ以外は止まることもなく走りきった。
感想からいえば、1100キロという言葉の距離感よりは、
実走の距離感のほうが短く感じていた。
ほとんどが高速道路、そして制限速度が130キロ!
これが実走距離の方が楽に感じた大きな理由かもしれない。
と、これが正しいルート、但し目的地がボローニャならば...
サンマリノGPと聞いてあなたはどこでレースが開催されると思うだろうか?
もちろん、今ほどF1の情報が巷に溢れているようならば、
ほとんどの人はイモラ!と答えるだろう。
だが1987年当時はまだ情報も少なく、初めて撮影に行く僕としては、
安心のために最初のレースだけはと、
ご丁寧にも日本の旅行代理店でサンマリノ共和国のホテルの予約をした...
F1はホテルが取れないと聞いていたのだが、何だ、簡単に取れるじゃないか!
う~ん、そりゃ取れるわけだ!サンマリノは名前だけで、開催地はボローニャに近いイモラだ。
サンマリノから車で2時間半はかかる距離だから、
いくら物好きでもサンマリノからイモラに日々通う奴はおるまい。
ということでヨーロッパ・ラウンド初戦でいきなりつまずいた...
毎朝5時おきでイモラに向かい、ホテルに帰ると既に街の灯りは暗く、
観光地とはいえハイ・シーズンにはまだ早く、空いてるレストランも数少なく、
結局、途中のガソリンスタンドで買ってきた菓子パンやお菓子そのもので、
最初の2日間は過ごす羽目になったl。
おいおい、最初からこんな状態で大丈夫か?自問自答を繰り返す。
それにしてもF1は何て世界なんだろうか?
ホテルは自分で探さなければならないし、どの宿もサーキットの周りは常連で一杯だ。
サーキットでもレストランやケイタリング・サービスなんてあるはずもなく、
チームのホスピタリティーでこそこそと肩身の狭い思いでランチを頂くならば、
観客と一緒にスタンド裏の売店でホットドッグでもかぶりついている方が性に合う!
もしかしてF1は取材されたくないんではないか?本当にそう思えるような待遇だ。
一転して、例えばテニスのメジャー・イベント。
フレンチ・オープンやウィンブルドン、あるいはオーストラリアン・オープンなどでは、
パスの申請をした段階で、親切にも「ホテルの部屋は必要か?」と聞いてくれるし、
実際にプレス向けに豪華なホテルを格安で予約をしてくれる。
更にプレスセンターでは毎日ミールのチケットが支給され、
中でもフレンチ・オープンでは何とマキシム・ド・パリがケイタリング・サービスを提供していて、
プレスランチなのにワイン、前菜から始まってメイン、デザートまであるのだから、
F1から見るとその差は天と地、いやそれ以上の想像を絶するものがある...
現実にF1を年間通して追いかけるというのは、あらゆる面で難行苦行の連続で、
それに耐え、乗り越えてきた人間だけが、あたかも水戸黄門の印籠のごとき、
今やプラチナ・パスとも言われる、FIA発行の「パーマネント・パス」(注1)を得ることができるのである。
一途にF1を追い、苦心の末に得たパスは本人にとってはまさに値千金。
虐げられ、苦労が多いだけに嬉しさもひとしおなのだが、
ふと気がつくと自分自身がかなりストイックになっているような気もするし、
本来ならレギュレーションを満たしているのだから、パスはもらって当然なのだが、
現実には「パスを頂けて嬉しいです!ありがとうございます!」と錯覚すら起こさせるほどのものなのだ。
ふ~む、これって実はバーニー・エクレストンにみんな上手く動かされているだけのかもしれない...
さあ、ヨーロッパ・ラウンドは始まったばかり。
まだまだ、色んなことが僕を待っている!まさに難行苦行の連続が...
注1
FIA発行のパーマネント・パスは、
そのパス・ホルダーに世界中のFIA公認イベントの取材を許諾するもので、
F1から国内レースまでその効力を発揮する。
だが逆にF3や国内のパスを持っていてもF1の取材はできないし、
またパス・ホルダーもこのパスの更新のためには、年間最小取材レース数、
加えて写真家の場合は、年間に出版される媒体に掲載される最低カット数などが定められている。
また単純にパスの申請をしても、多くの場合制限があったり申請自体が却下されるのが現状で、
ゆえにプラチナ・パスとも言われている。