友人の話。

「山に登ってると、手が見えることがあるんだ。
 えらく長い白い腕が、こう、ピクリともせず藪から突っ立ってるの」

そう言って彼は、片腕を上の方へ真っ直ぐに伸ばす格好をした。

「死んだ祖父ちゃんが言ってた。そんな手には絶対捕まるんじゃないぞって。
 彼岸に連れて行かれるからだってさ。
 思えば確かに、過去に遭難とか事故があった峠道でよく見たな」

「他にどんな場所で見えるかって?
 うーんそうだな。人が溺れ死んだ池とか沼なんかでも結構見える。
 水面からヌゥッと、細いのが何本か突き出ているんだ。
 アレに捕まったら多分、溺れちゃうんだろうな」

そういう彼は時々、地元の滝で遊泳監視員を手伝っている。
ちなみに彼が手伝い始めてからは、水難にあった子供はいないそうだ。