先輩の話。

彼は卒業後も度々、部活の指導や手伝いをしに来てくれていた。
その都度、各地の興味深い山話を聞かせてくれた。

「ある小さなキャンプ場なんだけどさ。一応トイレがあるんだ。汲み取りだけど。
 でも一番奥まった大用の個室は、誰も使う奴がいない。
 そこで用を足しているとね、覗かれるっていうんだ」

「いや人に覗かれるんじゃない。牛だってさ。
 しゃがんでると、天井の方からモゥモゥ聞こえてくるんだって。
 振り仰ぐと、ニヤニヤ笑ってるような顔の、牛の首だけが見えるんだと。
 こっちの用が済むと、掻き消すように消えるっていうけど。 逆に言えば、用が済むまでは消えないってことだよな」

「頑張るさんって呼ばれてる牛さんで、便所の神様ってことにされてる。
 本当にそうなのかは、誰も知らないけど。
 前から疑問なんだけど、一体この牛さん、何を頑張ってるんだろうな」