知り合いの話。
地元の山に、ちょっと変わった謂われを持つ窪地があるのだという。
一見は普通の窪みにしか見えず、別に変わったところがある訳ではない。
ただ雨水等が溜まらないよう、古いがしっかりとした側溝が付けられている。
人が来ることもない荒れた窪地に、なぜ側溝が整備されているのか。
言い伝え曰く、ここに水が溜まると大蛇が姿を現すからなのだと。
蛇と言っても普通の蛇でなく、身体のあちらこちらに人の頭が付いていると
いう異形の姿だ。
ヤガシラと呼ばれていたらしい。
八頭という字を当てると聞いた。
人を襲ったことはないらしいが、これが現れると疫病が流行ると伝えられていて、それで江戸時代の終わりに窪みの縁を切るよう、溝が設けられたそうだ。
今ではこの話を知っている者も少なくなった。
しかし誰の仕業か、いつ訪れても、溝は綺麗に手入れされているという。