ある梅雨のころ、とある寝たきりの独居老婆が心不全で亡くなられた。

不審な点はあれど、そこは田舎の警察。まあ事件性はないでしょうと、検死もなく葬儀を許可。

葬儀の当日、80余名ほどの列席者が参列の中、式はつつがなく執り行われた。
読経が始まり、「それではご焼香を」。喪主を最前列に焼香が始まる。
親族が続き、集まった参列者が列をなし、個人を偲びながら焼香する。

義妹も、式の様子と優しげに微笑むお婆ちゃんの遺影を見比べて、
良い式だなあ。お婆ちゃん良かったねえ。私もいつかこういう風に見送られたいもんだよ。
と感じ入ってたのだとか。

ところが、とある親族の方、遺影のお婆ちゃんの甥っ子にあたる中年男が焼香の列に加わった途端、
壇上の蝋燭全てが激しくゆらゆらと揺れだした。
すわ風か?空調を仰ぎ見る社長。
いや風じゃない?窓開いてない?大丈夫です。何だ何だ?
と、スタッフ一同ざわつく中、
件の中年男が遺影前に立ち、お香を取り額まで持ち上げた途端、全ての蝋燭がフッとかき消えた。
何事ぞ?と参列者スタッフ全員が壇上を見上げる。
我介せずと読経を続けるお坊さん。

すると、左側に掲げてあった重い真鍮あしらいの蝋燭立てが、
かき消えた蝋燭を乗せたまま、勢いよくばーんと見えない手にはたき飛ばされるが如く吹っ飛んだ。
凍り付く空気。あうあうなる中年男。ざわつく会場。

しかし、お坊さん少しも慌てず、ひときわ大きな声で、だけど優しい口調で読経を続けた。
お坊さんの声にハッとなる中年男。
そそくさと焼香だけ済ますと、親族のくせに逃げるように帰って行った。