仕事仲間の話。

業務で山奥に入っていると、大きな邸宅に出くわした。
今風のデザインが、場所も相まってひどく違和感を感じさせたという。

門を開けて中を覗いたが、誰も居る気配がない。

インターホンを押しても反応がなく、かと言って押し入るのも躊躇われ、塀伝いにぐるり
一周してみると、綺麗に手入れされた日本庭園があったらしい。

庭池の立派な錦鯉に感心していると、不意に誰かの視線を感じた。
辺りを窺っても自分の他には誰もおらず、気味が悪くなったので退散することにした。

次の日の朝、自宅で目を覚ました彼は、右腕に痛みを覚えた。
見れば手首から肘に掛けて、皮が広く剥けて失くなっている。
滲んだ血が布団を汚していた。
居間に下りて手当てをしていると、事情を聞いた父がこう言った。
「ははぁお前、どうやらヤカン(野干)さんの屋敷に入ってしまったな。
 ヤカンさんていうのは狐の眷属で、人の皮が大好物なんだと。
 お前が無断侵入したものだから、その代償で腕の皮を取られたんだろう。
 それだけで済んで良かったな。
 聞いた話じゃヤカンさんって、稲荷さんよりかなり荒っぽいらしいから」

「無断進入したつもりはないんだけどな… 」
包帯を巻きながら、釈然としない思いに囚われたという。