ハッとなって数歩後ずさる、10メートルほど下の景色を見たせいか、興が削がれたのと昼近くなって腹が減ったのもあって俺はもう戻ることにした
それで振り返ったとき、妙なことに気が付いた
栗の木からこの崖まではほとんど真横に50メートル
そんな所へ、栗が転がってくるものだろうか?
急に、栗で崖まで誘き寄せられたんじゃないかという考えが浮かんできて、怖くなって足早に歩きだした
だが、気が付くとまた崖の前、怖くなって回れ右して走りだすが気が付くとまた崖の前
もう冷や汗が全身から吹き出しながら膝が笑ってうまく歩けず、なんとか例の栗の木までたどり着くと低い位置に突き出た枝にしがみついた
それで、祖父が山でおかしな事に遭ったら一休みするか煙草を吸えと言っていたのを思い出した
一休みなんて出来る状況じゃあ無かったが、落ち着くことも大事だと思い直してシャツの胸ポケットから煙草を取り出してくゆらせた
かなり根元まで吸った後、持ってきた携帯灰皿に入れて適当にもみ消した
まったく状況が状況だけに吸った気はしなかったけど、少しは落ち着いたし膝もちゃんとした
恐る恐る歩きだすと、今度は崖の前に引き戻されることもなくすんなり下山できた