作画あがりをまとめて運搬するために透明の大きなプラケースや衣裳ケースをよく使う。
うちでは進行箱と呼んでいるが、ある晩作品が幾つも重なった結果、その進行箱が足りなくなってしまった。

山盛りのカット袋を素のまま運搬したのでは紛失や汚損の原因になってしまうので困り果てていると、
進行の一人が気を利かせてゴミ捨て場から2つ拾ってきた。
少しばかり黄ばんでいるが、問題はなさそうなので有り難くいただいてその晩は乗り切った。
翌日、撮影から連絡があってヘリに薄く赤い印のついた作画袋はリテーク分か何かか?と問い合わせが入った。

そんな分類法は使っていない。、多分ただの汚れでしょう、そのまま進めて下さいと返事して
多分あの拾ってきた進行箱だな、と見当を付けてぬれタオルを手にそのケースに向かう。

昼の光のなかでみると黄ばみがかなりひどいが作画袋を汚すような赤い汚れは見あたらない。
ざっと内側を一撫ですると、タオルがドス赤くなった。黄ばみじゃない、血?で着色してる?
雑巾からも何か生臭い匂いがする。
横で見てた女のアニメーターが悲鳴を上げてスタジオは騒然となった。
もちろん大慌てで警察へ届けた。ゴミを勝手に持っていくのは違法だと知ったのもその時だ。
僕も進行も呼び出されて、取り調べも何度か受けた。

半月ほどして、人の血ではない、恐らく犬だろうと教えてくれて、結局放免してもらえたが、
そこでまたスタジオがパニックになってしまった。
ここしばらく深夜に何匹もの子犬の声が聞こえていたらしい。
女の子数人が、心配してスタジオ中探し回ったが見つからないまま鳴き声は途絶えたそうだ。
ちょうど僕が最後に警察へ出向いた辺りのことだ。

その後も色々あったらしいが、僕は家の都合もあってすぐにそこを退職したので詳しいことは知らない。

ただ翌年、その会社から裏面一面が真っ赤な暑中見舞いが届いた。
印刷された文面は「見つけました!社員一同」とだけあった。
もちろん、仕事への情熱を表現したものだろうが、それだけとは思えない狂気も匂ってくるような気がして、
すぐに焼いて捨てた。