気がつけばもうおばあちゃんはもう80を過ぎていて、昔は自転車に乗って買い物をしにいったり
老人会の集いみたいなのに出かけていたのに、いつのまにかそれをしなくなっていた。
毎日顔を合せているから分からなかったが、よく見れば頬は扱け手には血管が浮いていた。
それでもおばあちゃんは毎日猫たちに餌をやり続けた。
おばあちゃんが疲れて布団から出てこないときは俺や母が餌をやった。
一昨年の夏、俺が職場のゴミ出しに外へ出るとおばちゃんが「クロ」と呼んでいた猫がゴミ置き場にいた。
地面に寝転がるのが本当に好きで、よく餌を食べるなんだかだらしのない印象の猫だった。
いつも面倒くさそうな顔をしていたけれど、どこか憎めない奴だ。
俺は心の中で(ああ、この生ゴミの臭いに釣られたな)と思い少しニヤついた。
いつも家で見ているクロを職場で見るのは何だか新鮮で少し嬉しかったのだ。
クロは俺を見据えたままトコトコこっちへやってきて
ゴミ袋を持った俺の1メートル手前で背筋を伸ばしビシッと座った。
いつもだったら足元に擦り寄ってきて餌をおねだりをするクロがまるで敬礼しているみたいに
前足や耳をピンと張らせ自分を見ている。
そんなクロを今までに見た事が無かった。
鳴きもせず喉を鳴らす事もせず只ひたすらに彼は俺の目を見つめたのだ。
彼が伝えようとした意味はそんなに難しい事じゃなかった。
受け入れたくない類の、けどいつかはやって来る事だった。
大人になって初めて泣いた。