知り合いの話。
彼はかつて漢方薬の買い付けの為、中国の奥地に入り込んでいたことがあるという。
その時に何度か不思議なことを見聞きしたらしい。
「とある山に入ろうとした時のことです。
里の者に案内を頼もうとしたのですが、酷く渋られまして。
曰く『あそこには森の鬼がいるから行きたくない』と、そう言われたんです。
まぁあちらで鬼というのは、どちらかと言うと幽霊とかに近いニュアンスも
あったりして、日本の鬼とはちょっと違うニュアンスなんですが」
どんな鬼なのかと問えば、次のように教えられたという。
「その鬼に出会ってしまうと、全身の血が固まって死んでしまうんだそうです。
まるで煮凝りみたいなゼラチン状に変じるそうで、死体の表には膨れた血管が
網目のように浮き出ているんだとか。
人目で『あぁ鬼に行き会ったんだな』とわかる酷さらしいですよ。
だから鬼の姿形や正体などは、皆目不明なんだと言われました」
「でもまぁ、ひょっとしたら。
まだ知られていない、何らかの風土病なのかもしれませんけどね。
あの国は本当に広いですよ」
そう言って彼は苦笑した。