知り合いの話。

彼の祖父はかつて猟師をしていたという。
遊びに行った折に、色々と興味深い話を聞かせてくれた。

「川魚も獲ったな。
 釣りはあまりせなんだけど。
 アク流しってのを利用してた。
 灰揉み流しとも言ってたな。
 アク流しってのは、木の灰に○○の皮や根っ子を粉にして混ぜ込んだ
 合わせ灰を使うんだ。
 袋に入れて上流で揉んでやると、一面濃い茶色の汁が広がる。
 この灰汁を飲んだ魚が、弱って浮いてくるのを網で掬うって寸法。
 いわゆる毒流し漁だな。
 まぁ、毒といっても一寸の間痺れるくらいだがヨ」

「馬鹿な奴がいてな、大量に灰汁拵えて、とんでもない分量を一気に流しやがった。
 そんなのは御法度だったんだ、淵の魚取り尽くしちまうから。
 しかし、そいつは鼻摘み者だったからな。
 人の言うことなんか聞きやしない。
 ただよ、毒を流した場所が悪かった。
 主がいるから誰も近よらないっていう、奥の淵を狙いやがったんだ。
 誰も魚獲らないから、獲物も仰山いると考えたんだろうな」
「こっそりとそこへ出掛けて、手際良く毒灰汁を流し込んだらしい。
 たっぷりとな。
 でもよ、ぽっかり浮いてきたのは魚だけじゃなかったんだと。
 淵のド真ん中の方に、牛ほどもある大きさの、何か長い毛がみっしりと生えた、
 黒くてでかい物が浮かび上がったんだとさ」