この間、渓流釣りに行ったときの話
梅雨もあけ、晴れの日が数日続いたので川の水嵩もだいぶ落ち着いていた。ポイントの淵へは川沿いに登っていったんだが、予報では30超えが言われていたけど大きく張り出した木の枝と上流から吹き下ろしてくる風のおかげで思っていたよりも全然涼しかった
いつもは熊避けの鈴を下げてくんだけどその日に限って忘れてきてしまった。前の週に尾瀬へ行った弟に貸したままだったのを思い出したのは、車を降りてからだった
途中、いつからあるのかわからない小さな祠に握り飯を一つ供え、誰かが供えていったワンカップの空瓶に川の水を酌んで供えてなおも登る。この社、もう釣りのためにここを通る人くらいしか手をあわせないらしい
もう少しで目的の淵につくというころ、この辺は足場も悪くて歩くのも一苦労
疲れも調度たまってくる頃で、早く淵について傍の小さい川原で一服したいと気が逸る。目の前の藪を越えたらもう目的地は文字通り目と鼻の先、藪を一端に手をかけ分け入ろうとしたその時
不意に川上から吹く風が強くなり強烈な獣臭さが鼻をついた
同時に『おい!!』と野太い声に背後から一喝された
びっくりして藪に分け入ろうとして片足あげた態勢のまま固まってると、視界の中、藪を透かして見える10メートルくらい先の流れを黒い何かがのそのそと渡り、対岸の斜面を登っていく
見事な体躯の熊だった
背後に謎の声、前方には熊
心臓がバクバク脈打って自分の心音で耳が痛くなりそうになってたときまた背後から声がした
『もういいぞ』
少しも安心はできなかったけど、その言葉を聞いたらふっと力が抜けてあげたままの足を下ろした。足は丁度枯れ木を踏みつけて大きな音が響いた
今になって思うと、あの声に驚いて足を止めなきゃ熊と鉢合わせしてたんだろうな
このスレで何度か話に聞いていたけど、自分がお供えのご利益にあずかったのはこれが初めてだった
(祠にお供えしても坊主の日はあったし)
その日はとにかく怖かったから一目散に帰ってきたけど、今度行くときは酒でももっていこうと思う