知り合いの話。
彼はかつて漢方薬の買い付けの為、中国の奥地に入り込んでいたことがあるという。
その時に何度か不思議なことを見聞きしたらしい。
「そこは山奥の、霧深い沼沢地でした。
季節によっては本当にもう毎日、十メートル先も見えないような霧が出るんです。
その中を歩いていると、身体中がじっとりと濡れてしまうような、深い霧が。
そんな所でも生活している人は、ちゃんと居るんですけどね」
「ある朝、邑の者と一緒に歩いていたんですよ。
その時もやっぱり深い霧で。
その辺りは深い沼地ばかりで、詳しい人と共に行かないと、直ぐに深みに嵌まって
溺れてしまう怖い場所でもあるんです。
その内に前方から、ブルルルっと馬の鼻息みたいな音が聞こえてきました。
耳に届いた途端、連れがピタッと立ち止まってしまって。
私といえば馬でも居るのかな、くらいにしか思い浮かばなかったんですが」
「どうしたんです?と問い掛けたんですが、様子がおかしい。
身動き一つせずに、ただこうじっと、高い方を見上げていて…。
何かあるのかと、私も同じ方を見上げてみたんですけど」