知り合いの話。
彼の祖父は、古い大きな鉈を愛用していたという。
鉈といっても山刀のようなごつい代物で、山に入る時には必ず携えていたそうだ。
不思議なことに、祖父がそれを手入れしている姿を見たことがない。
だのに切れ味は抜群なので、一体どんな磨き方をしているのか聞いたことがある。
「何も手を入れちゃいない。こいつは特別なんだ」
御爺さんは、カラカラと笑ってそう答えた。
祖父が死んだ夜、通夜のため納屋を片付けていた彼は、この鉈を見つけた。
前日まで黒光りしていた筈の刀身が、全身真っ赤に錆び付いていた。
自分の見ている物があの鉈であると理解できるまで、少し時間が掛かったらしい。
家族で相談した結果、鉈は祖父の墓が臨める山の斜面に埋められたという。