山仲間の話。
学生時、部活でキャンプしていた時のこと。
そろそろ寝ようかと火の始末等始めていると、下方より足音が上ってきた。
やがて彼らの前に現れたのは、ごく普通の背格好をした男が一人。
紺のスーツと革靴という、およそ深山に似付かわしくない服装が奇妙だった。
髪型は見事に七三分け、御丁寧にブリーフケースまで提げている。
男は彼らを見ると、白い歯を見せて快活に話し掛けてきた。
「すいません、私と同じ顔をした男性を見掛けませんでしたか?」
その場にいた全員が何を聞かれたのか理解出来ず、「は?」という顔になる。
「 …見てませんが」ようよう部長がそう答えた。
「そうですか、それはどうもお騒がせしました」
男は慇懃に一礼すると、頂上に向かい歩き出した。
速い。山慣れた彼らが思わず感心するほどの健脚だったという。
「何だったんだ、アレ?」
皆怪訝な面持ちでいたが、いくら考えてみても答えが得られるものでもない。
放っておくことにして、中断していた作業に戻る。
しばらくして、また下方より足音が聞こえてきた。
「またか、こんな夜中に。今度は誰だっていうんだ」