知り合いの話。
彼の祖父はかつて猟師をしていたという。
遊びに行った折に、色々と興味深い話を聞かせてくれた。
「ある山のことなんだけどな。鉄砲担いでいると、誰かに呼ばれることがあったわ。
『おーい』って、ただその一言だけなんだけどな。
これが繰り返し聞こえてくると、覿面道に迷っちまうんだ。
だからそこで猟はお終い。ま、仕方ないわな。
どんな浅い山でも、道失くしちまったら、おっちぬ(死ぬ)可能性があるしよ。
儂らは“ヒトコエカケ”って呼んどった」
「鉄砲下ろしてから知ったんじゃが、別の地方でも似たようなモノがあったらしい。
やっぱり引退した鉄砲撃ちに聞いたんだけどな。
そいつらの地方じゃ“ヒトコトモウシ”と呼んどったとよ。
ひょっとしたら、こういうのが出る御山ってのは、昔は至る所にあったのかもな。
今はどうか知らんがよ…まぁ聞かないで済むに越したこたぁねえか」