友人の話。

山深い峠道を一人歩いていると、背後から鈴の音が聞こえてきた。

 リン リン リン

熊避けの鈴とは音色が少し違っていた。
誰だろうと振り返ってみたが、道上には誰の姿も見えない。
しかし音だけは確実に近付いてくる。

戸惑っていると、いきなりドンッ!と衝撃があって弾き飛ばされた。
大きな生物に体当たりされたような感じだったという。

尻餅を付いて呆然とする彼の前を、鈴の音だけが軽やかに通り過ぎて行く。
ようやっと立ち上がったのは、音が遠く聞こえなくなってからだった。

後日、実家の祖母からこんな話を聞かされた。

「あそこの山には昔から鬼が住んでいるそうだよ。
 時々人を獲ってたもんだから、偉い御坊さんに鈴を付けられたんだって。
 鬼が近よって来ても、察して逃げられるようにね。
 あんた運が良かったよ。
 鈴鬼が空きっ腹だったら、獲られてたとこだよ」

…この現代に鬼とか言われてもなぁ…

そう思いはしたが、それ以来鈴の音にはとても敏感になっているそうだ。