友人の話。
彼女はかつて、質の悪い男に付きまとわれていた。
結婚まで考えた相手だったが、同棲し始めた途端、暴力を振るうようになったのだ。
別れようと口にすると、その度涙を流して「もう殴らない」と謝ってくるのだが、
しばらく経つと元の木阿弥、いやそれどころか暴力の度合いがどんどん酷くなって
いったのだと。
堪らず、母方の祖父を頼って、山奥の寒村に逃げ込んだという。
祖父は何も聞かずに受け入れてくれたが、彼女の様子に思うところがあったのか、
非常に変わったことを言い出した。
「ここの奥山にな、縁切りの神様があると言われとる。
御力をお借りするか?
…まあ単なる言い伝えだからなぁ。
…良くない話も聞いとるし、やらん方がええかもしれんが」
「神様ですって?」
彼女はかなりのリアリストだ。
普段ならそういうモノに頼る気など、欠片も起こさなかったに違いない。
しかしその時はひどく思い詰めていた。
信じてもいない神に縋るくらいに。
詳しい話をせがんだところ、祖父は次のようなことを教えてくれた。
「一人でずっと山の奥、そう、御柱様のおられる所まで行かねばならん。
縁切りを強く願う者がそこに行くと、一本の変わった大木に出会うと言うんだ。
枝という枝が至る所で溶け合っているような、異様な外見らしい。
縁切りを望む者には、すぐにそれとわかると聞くがな。
御柱様の方から姿を現されるのかもしれん」