先輩の話。
夕暮れの山を一人で縦走していると、古びた背の高いテントに出会した。
一体何でまた、こんな森が深い場所に設営してるんだろう?
声を掛けてみたが応えはなく、そっと中を覗いてみた。
そこには何もない。
人が滞在した様子も伺えない。
「テントを置き去りにして、そのまま山を下りたりするものだろうか」
疑問に思いながら首を引き戻すと、周りの風景が変わっていた。
いつの間にか先輩は、薄暗いテントの中に突っ立っていたのだ。
「 …自分は外からテントを覗いていた筈だ。
その自分が、なぜテントの中にいるのか?」
恐る恐る、入り口から顔を突き出してみる。
薄暗い。そして今自分がいるのとまったく同じ情景。
間違いなくそこもテントの中だった。
「テントが二つ並んで設営されていたのか?
いや、確かにテントは一つだけだったが… 」
反対側の出口に駆け寄り、薄幕を引き開ける。
そこも別のテントの中に繋がっていた。
早足で中を横切ると、そのテントの出口を覗いてみた。
やはりその先も、薄暗いテントの中だった。