知り合いの話。
彼はかつて漢方薬の買い付けの為、中国の奥地に入り込んでいたことがあるという。
その時に何度か不思議なことを見聞きしたらしい。
「山奥の農村部には、陰婚って呼ばれる古い風習が今でも残っているんです。
独り身の男性が亡くなった時に、やはり独り身の女性の死体を一緒に添い遂げ
させて埋葬するんだとか。
埋める前には陰婚式というちゃんとした式も挙げるといいます。
地方の山奥では、今でも普通に行われているんだそうですよ。
私がいた山村では冥婚って言われてましたが、まあやってる事は一緒です。
で、滞在中に変な話を耳にしまして」
「ある村で、独身の一人息子が死にかけていたらしいんです。
それで不憫に思った親御さんが、早々と陰婚用の死体を買ったというんです。
ええ、ちゃんとそれ用の手配師がいるみたいで。
ただ値段は張るようですね。骸一体が農民の年収にも匹敵するのだとか」
声を潜めてこう続ける。
「…ここだけの話、これが今あの地方で、社会問題になっているみたいで。
幾ら人が多いといっても、毎回毎回そう都合良く若い女性の死体なんて、
まず手に入らない訳ですよ、当たり前の話ですが。
だから、死体を売買する目的で殺される女性があるのだとか。
障害者とか無戸籍の女性が狙われるとか、そんな噂も聞きました。
まあこの時の死体は、そういった不法事例ではなかったようですが」