知り合いの話。

彼の住んでいる町には、沢登りでちょっと有名な渓谷がある。
時たま入門コースを外れ、奥の河内で滑落死する者がいて、運がいいと流されてくるのだという。

運の無い者は人跡稀な山奥のならいで、登山者から通報され、
彼は青年団の務めとかで、そういう遺体を引き上げに行くのだそうだ。

「この川で仏さんが引っ掛かっている場所は大体決まってます。
 三箇所あるんですけど、上流側の方が、何というかその、毎度落っこちて死ぬ場所でして。
 そこで見つかる仏さん、みんな顔が潰れてうつぶせに浮かんでるんですよ。

 目玉が垂れ下がってるとか無くなってるならまだいいほうで、脳天が割れて脳味噌半分出てるのとか。
 最初は慣れませんでしたが、浜の漁師連中に聞いた恵比寿さんにくらべればまだしも…ってね…。

 次によく見つかるのは“河童淵”の小さい滝つぼですね。
 ここで見つかる仏さんはほとんど無傷なんですが、滝つぼで溺れちゃってるんでしょうね。
 ハイカーの人も迂回路にしか使わないんで、見つかったときはブヨブヨかズルズルの水死体です。

 一番恐ろしいのが、乙女沢の出合いです。

 本流から逸れた沢なんですけど、乙女沢には落っこちたり滑ったりする滝や崖はないんですよ。
 ごくごく普通の、緩やかでゴルジすらない明るい沢で。
 ただ、この沢はどうも冷たい伏流水が多いようで、見つかった仏さんは夏でも腐ってないんです。

 専門の人によると、何年も乙女沢に漬かってれば死蝋とかいうのになるんだとか…
 ここで見つかる仏さんは、例外なく、泣き叫んでいるような顔なんだそうです」