源三が背負っていたのは、行方不明になっていた男の子だった。
男の子はぐっすりと眠っており、大きな怪我もない様子だ。
どこで見つけたのか、問い詰める曾祖父に、源三は困った顔で語った。
源三はカモシカを追っていた。岩場(曾祖父が泣き声を聞いた場所)で数日を過ごした。
なんとか一頭仕留め、喜んで走り寄る途中、足を滑らせ崖を落ちた。
「俺もここまでか」そう思ったが、目を覚ますと特に怪我はしていなかった。
「運がいい」そう思いながら、元へ戻る道を探していると、急に霧が立ち込めて来た。
そして、泣き声が聞こえてきたのだと言う。
源三は何故こんな山深くに子供の泣き声が、と驚き、何度か声を掛けた。
しかし、返事はない。歩き回ろうにも、視界がまったくと言っていいほどにない。
仕方なく子守唄を歌ってみた。源三の村で歌われている子守唄だ。
すると、泣き声が止んだ。しばらくして、霧の中、少女が源三の傍へやって来た。
「弟が怪我をしてる」少女はそう言うと、源三の袖を引っ張る。
少女についていくと、落ち葉をかき集めた岩の陰に、男の子が眠っていたと言う。
男の子を背負って、さあ戻ろうと振り返ったら、少女はいなくなっていた。
さっきまで、あれほど立ち込めていた霧も晴れていた。
つづく