次の日、両親だけが山へ入る姿を、曾祖父はなんともいえない気持ちで見送ったと言う。
曾祖父の姉も、10年ほど前に神隠しに遭っていた。
村一番と言われる高祖父が、半年に渡って探しても、
姉の着ていた服一切れすら見つけることが出来なかったのだそうだ。
その日、曾祖父と高祖父はカモシカを一頭仕留めて戻った。
途中、岩場で霧に巻かれ、視界を失う程だったと言う。
そこで曾祖父は、子供の泣き声を聞いた。
神隠しに遭った男の子ではないのか、そう言う曾祖父に、高祖父は首を振った。
「あれはもう10年も前から聞こえて来る。決まって霧が出た時だけ聞こえるのだ」
そう語った高祖父の目は、涙が溜まっている様に見えた。
泣き声は神隠しに遭った姉のもの、高祖父はそう信じているようだった。
曾祖父はただただ、姉の魂に黙祷を捧げたのだと言う。
カモシカを持ち帰り、高祖父と曾祖父は眠った。
早朝、目を覚ました曾祖父は、何気なく庭へ出た。
曾祖父の家は、裏庭が山へと繋がっており、その日も何気なく山を見ていた。
すると、男がひとり、ゆっくりと山を降りてくる。
どうやら、数日前(神隠しが起こるより前)から山へ出ていた源三のようだった。
源三は、下手糞な子守唄を歌いながら降りてくる。
よく見ると、背中に誰かを背負っている。曾祖父は慌てて源三に駆け寄った。
つづく