蛾の死骸をテントの外へ捨てたが、彼が夜明け前に痛痒くて
寝ていられなくなり、朝にはテントをたたんで下山した。

帰ってから見ると、寝袋の中に、小さな卵が産みつけられていた。
数え切れず、信じられないほど多くの卵だった。

数週間かけて、彼は毒でただれた皮膚を治療した。
彼の身の回りに小さな青虫が出始めたのは、冬を越え、
春になってからだった。

服や靴、時にはバッグから。
鼻をかむと、鼻水の中に青虫がいたこともあったらしい。
まさか蛾の幼虫が人体に寄生などするまいと思ったが、
寝袋の卵と、その青虫が無縁だとも思えなかった。
医師が首をかしげるような、不思議な粉瘤も気がかりだった。
彼の肌近くに、青虫がいるのは間違いなさそうだったが、
しばらくして、彼の身辺から青虫は消えた。

ちょうど成虫になる頃だと思ったが、口にはしなかった。

粉瘤のなかの臭い物体が本当に糞だったのか、彼は知らない。
医師がそれをどう扱ったのか、それも知らないままだ。