「…!!」と声にならない声を出し、Tは後ろへ飛び跳ねて今にも階段から転げ落ちそうになった。
誰もいないとばかり思っていたが、薄明かりを灯しただけの暗い部屋に祖母・母・妹が鎮座していたのである。
妹は先まで泣いていたようで母の膝の上で寝息を立てており、祖母は数珠を手に何やら経文を唱えている。
何事かと髪の乱れた母に尋ねると、父の様子がおかしいと、よく分からない説明をした。
恐る恐る居間へ忍び寄ると、そこには大酒をかっ喰らいイビキをかいている父の姿。
辺りには割れた瓶や、魚の骨や肉のパックが散乱し酷い有様。生で食べたと思われる。
勤め先で何か嫌な事でもあって荒れたのだろうか? とも思ったが、それにしては異様な光景である。
父を揺り起こすと、意外にもいつもと変わらぬ呑気な口調でお目覚めのご挨拶。
Tは父に水を飲ませ、詳しく話を聞いた。
しかし、帰宅途中にバイクのハンドルが効かなくなり、草むらの中に突っ込んでから先の記憶が無いと語る。
居間の散らかり具合を見た父は、自分がやった事も忘れ、唖然としていたという。
翌朝、休日だった事もあり、Tは父と二人で事故現場に赴いた。
そこは緩やかな弧を描く道で、事故を起こすような場所には思えなかったが、
Tの心の中には「変なもの」を見た時のような、じめじめとした嫌な気分が生じたそうだ。
つづく