学生時代の友人にTという奴がいた。
Tの家は鬱蒼と生い茂った雑木林の先にある山の中の一軒家で、遊びに行くのが少し怖かった記憶がある。
実際にTは、家と街を結ぶ山道でいろいろと「変なもの」を見た事があるらしい。
視界の片隅に浮遊する生首のような物が見えたが、焦点をそちらに合わせると何も無いだとか、
見慣れぬ子供たちから、獣の死骸に石をぶつけるのを誘われたりとか、まぁ、いろいろである。
そんなTが高校生の頃の話。
野球部に在籍していた彼は毎日のように帰りが遅く、家に着くのは日が暮れてからであった。
街灯もまばらで、申し訳程度に舗装された頼りない道を、自転車のか細いライトを頼りに懸命にペダルを漕ぎ、
風でざわめく雑木林を振り切ると、ようやく我が家の明かりが見えてきてホッと息をつけるのだという。
しかしある晩、その明かりがTを出迎えてくれなかった事があった。
いつもなら一家団欒の頃で、テレビでも見ながらご飯を食べているような時間である。
ところが今日に限っては、闇夜に家のシルエットが浮かび上がるだけで、にぎやかな声も聞こえない。
玄関は開いている、が「ただいま」の声に返答は無い。
自分に内緒で外食にでも行ってるのかと、Tはかすかな不安を覆い隠しつつ、二階の部屋へと向う…
つづく