昔、人の良い薬売りの男が、山深い村を目指して険しい道を歩いていた。
ふと、傍らを流れる川に目を向けると、川上から古びた長持(ながもち)が流れて来る。
薬売りが川岸に駆け寄ると、長持は彼のすぐ目の前に流れ着いた。
薬売りは長持の中身が気になったが、釘でも打ってあるのか蓋はぴくりとも動かなかった。
長持を手繰り寄せてみると、思いのほか軽い。
この先の村人の持ち物ではなかろうかと思った薬売りは、長持を担いで村へ向かう事にした。
村に着いた薬売りが、野良仕事をしていた若い百姓に長持の事を尋ねると、
「…ああ、そりゃオラんとこのだ」と、百姓は鍬を放っぽり長持を持って家に帰ってしまった。
早くに持ち主が見つかって良かったと、薬売りは気をよくしつつ、村のあちこちを訪ねて廻った。
しばらくして、薬売りが村から出ようとすると、五ツほどの小さな子供が袖を引く。
「どこの子です?」と薬売りが問うても、村人たちは一様に知らぬと言う。
子供は「もってけ、もってけ」と薬売りの袖を引いて、村外れの粗末な家に案内した。
つづく