T少年が雑木林で虫取りに興じていたところ、ヒビ割れた甕(かめ)のような物を見つけた。
甕の中を覗いてみると、弱々しく鳴いてすがってくる子犬がおり、Tは捨て犬だと思い家に連れ帰った。
何とか家族を説き伏せ、子犬を飼う許しを得たいTであったが、子犬の姿を見た母親は悲鳴をあげて泣きじゃくる。
母がそんなにも動物嫌いだとはつゆ知らず、Tは泣く泣く元の場所に子犬を返しに行った。
翌日、再びT少年が雑木林に赴くと、子犬は割れた甕ともども姿を消していたという…
「子供の頃、そんな事があったよねぇ」
大人になったTが実家に帰省した折に、悪戯っぽい笑顔で母に話しかけてみた。
Tの母はこの話を思い出すのに少し時間を必要としたが、やがて複雑な表情を浮かべてTの顔をまじまじと見た。
そして一瞬ためらった後、Tにこう切り出した。
「あんた、覚えとらんの? あれ… 犬じゃなかったやろ」
では、何だったのか? Tは母の台詞に得体の知れぬ薄ら寒さを感じ、それ以上何も聞けなかったが、
そんな気持ちとは裏腹に、あの日その時の記憶が鮮烈に脳裏に蘇ってくる。
「そういや、あいつ… 何かを必死で訴えかけてたっけな。片言の英語で……」