祖父はその犬の立派さにほれぼれし、飼い主が見つからなければ
飼いたい、と思った。だが立派な犬なので、皆が欲しがっていた。

祖父は犬を預かった。犬は見る見るうちに元気になった。
だが、夜になると不安げに鳴く。かわいそうなので一緒に寝た。

ますます犬に愛着が湧き、飼い主が見つからなければいいと思った。

だが数週間後、飼い主と名乗る男がやって来て、犬を連れて行った。

その後、里に下りて来たAさんに祖父は話しかけた。
「犬の飼い主が見つかったよ」「熊と戦える犬、欲しかったなあ」
Aさんは複雑な笑みを浮かべ、祖父に言った。

「あれは熊じゃねえ。もっと危ないもんだ。

 あの犬は魅入られた。その証拠に夜な夜な愛しげに鳴いたろう。
 飼い主の元に戻るのが一番いい。そうでもなきゃ、連れて行かれる…」

祖父はよく分からなかった。だが、犬の鳴き声は覚えていた。
悲しそうな鳴き声だった。飼い主の元へ戻りたいのだろうと思っていた。

Aさんはしょんぼりする祖父に「今度犬を拾ったら、お前にやる」と約束し
山へ帰って行った。

つづく