タヌキというのは人間より遙かに夜目も効くし耳も良い。
だから夜間に他の野生動物が近づいて来ても先にタヌキが警戒するのですぐにわかる。
俺は猪を最も警戒している。あいつらは身に危険を感じると積極的にその牙を持って襲ってくる。
大腿部の動脈なんか傷つけられたら命取りだ。
その日、顔見知りのタヌキが耳と鼻をピクピクやり始めた。外敵の合図だ。
俺は身構えて蝋燭の灯を消し、気配だけに集中した。
向こうの藪の中の気配に、俺も相棒のタヌキも集中していた。物音はしないが気配だけがある。
俺は野猫だろうと思った。野生化した猫は闇夜を全く音を立てずに歩き回る隠密のプロだからだ。
しかし、やがてタヌキが「グッグッグッ・・・」みたいな声を出し始める。明らかに怯えている声。
確かに凶暴な野猫はタヌキを襲うこともあるが、タヌキがこんなに追い詰められた声を出すのは人間に対してだけだ。
何者かの気配はすぐそこまで迫った。相棒のタヌキはさっさと逃げ出したようだ。
つづく