その日は家族全員で山へ向かった。
テントを張り、食事を終えて、少し離れた場所で妹と遊んでいると、
妹が「あの人、どうしたのかな」と言った。
見ると、少し先に女の人がしゃがみ込んでいた。
妹は人見知りするタイプだったので自分が声をかける事にした。
「どうしたんですか?」と聞くと、女の人は俯いたまま
「ちょっとね」としか言わなかった。
よく分からなかったが、具合が悪いのだと思いコッフェル(水遊びに使っていた)で川の水を汲みに行った。
女の人は相変わらず踞っていたので、妹が「どうぞ」とお水を渡した。
妹は女の人の正面に回り込んでいて、自分は女の人の背中側に居た。
女の人は「ありがとう」と顔を上げて妹に言った。
と、急に妹が泣き出し、親の元へ走って行った。
追いかけようと思ったが、女の人がコッヘルを地面に置き立ち上がったのでコッヘルを拾い、女の人を見送った。
女の人はそのまま振り返らずに行ってしまったので
結局、自分は女の人の顔を一度も見なかった。
親の元に戻ると、妹が「のっぺらぼう!」と言いながら泣き叫んでいた。
見なくてよかった、と言う気持ちと、自分が水を手渡せば妹が怖い思いをしなくて済んだのに、と言う複雑な気持ちになった。
妹の見間違いなのか、本物ののっぺらぼうだったのかは分からないけどね。