ふっつりと風が止んだ。

だが、周囲の山々からだろうか、木枯らしとも虎落笛とも聞こえる音が、高く低く、遥か遠くから聞こえてくる。
ホテルに着くと、俺達の姿を認めてドアを開けてくれたボーイが、急に驚いたような顔になり、「早く中へ!急いで!!」と叫んだ。

訳がわからないが、とにかく俺達は慌てて中へ入った。。
すると、彼は素早くドアの錠を下ろし、フロントへ駆けよって、地元の言葉で何か言った。

フロントの男が大急ぎでこちらへ駆け寄り、妙に緊張した面持ちで尋ねて来る。
「大丈夫ですか?気分はわるくないですか?平気ですか?」
別に大丈夫だと、俺達がそれぞれ答えると、彼は安心したように溜息を吐いた。
「ああ、それは良かったです…」
ボーイもほっとしたように頷いている。

「何なんですか、一体?どうしたって言うんです?」と、主任が尋ねた。
「いえ」フロントが眉間に皺を寄せた「良くないモノが叫んでいたようなので…」
「良くないモノって、何ですか?悪魔とか鬼とか、そう言う類?」
主任が“鬼”と言う言葉を口にした瞬間、彼らは飛び上がりそうになった。

「叱っ!!滅多な事を口にしないで下さい!!」

彼らの説明によれば、良くないモノと言うのは、死んでしまったのに、まだ魂が身体の中に半分残っていて、半分の魂だけが野山を彷徨うばかりの、哀れな霊魂の事だと言う。

それは、時折、死んでも死に切れない自分を嘆き悲しみ、狂ったように泣き叫ぶ。
その叫びを生きた人間が聞くと、とても気が滅入り、間もなく自殺してしまう。
俺達が聞いた、あの物寂しげな不思議な音が、その“鬼叫”らしい。
「よかったです、無事にここへ辿り着けて」彼らは本気でそう思っているようだった。

つづく