ふだん、主任も俺も(自分は物を貰って当然!)と言う態度の物乞いには何も与えない。
だが、この時、俺達は自分のポケットを急いで探っていた。

まだ両替していないから、ほんの小銭しか持っていない。それでも、二人分合わせれば、この国なら2日は食べられる程度のお金と、機内で貰った飴が数個あった。
老人の掌にそれらを乗せると、彼は押し戴くようにして受取り、大切そうに荷車の中へ仕舞い込む。

主任が急に、自分の鞄の中から、ビニール袋に包まれた小さな物を取り出し、彼にそっと差し出した。
穂の付いたまま、丸く束ねられた稲藁。それを飾る松葉、笹、センリョウ、紅白の椿と獅子頭。事務所に飾るつもりで買って来た“正月飾り”だった。

受け取って、一瞬戸惑ったような表情を見せた老人の手を、次の瞬間、主任がしっかりと自分の手で包み込んだ。
途端に、彼の両眼から大粒の涙がポロポロこぼれ始める。

泣きながら何度も何度も礼を言い、また、荷車を引きながら、ゆっくりゆっくりその場から去って行く老人を、主任はなんとも言えない顔で見送っていた。
「…勝手にやったりしてすまん。でも、あの爺さん…」主任は言いかけて少し言葉を切り、
「もしかしたら、自分の親と同じような齢なんだと思ったら、何だか……」
環境が厳しいこの国では、人々の平均寿命は約60歳。

言いようの無い思いにとらわれながら、主任と俺は再びホテル目指して歩き出した。

つづく