男は落ちた時に打った尻を擦りつつ、鳥居を睨みつけて舌打ちをした。
そして、巨体に似合わぬ軽やかな足取りで神社を後にして、溜め池の奥の草むらへと消えていった。
男の体を触った少年たちの手は、やけに生臭かったという。
少年たちは、変なおっさんだったなと思いつつも、溜め池に向かって釣りを始めた。
数匹の鯉が釣れ、魚篭(びく)に入れておいたが、後で魚篭の中を見てみると、
鯉は何かにかじられ、喰い散らかされていた。
少年の中のひとりが、鳥居での出来事を祖父に話すと、祖父は血相を変えて子供たちを掻き集め、
神社に参詣し御祓いを受けさせた。
男を鳥居から助け出した小さい子は、
特に念入りに御祓いが行われ、しばらく家から出る事を許されなかったという。
あの男が何であったのか、大人たちは一様に口を閉ざした。
溜め池は鉄条網で張り巡らされ、そのうち学校から、溜め池周辺で遊ぶ事が禁止される通達があった。
その日を境に、子供たちの笑顔と声が山から消えた。