大きい。ネズミなどではない。捕らえてから随分と時間が経つので、
獲物は半ばミイラ化していたが、明らかに獣では無かった。

それには体毛が生えておらず、尻尾も無い。まるでヒトの胎児のようであった。

こんなものが天井裏を這いずり回っていたかと思うと、J氏は気が気ではなかった。
妻と息子に見つからないうちに処分しようと、自転車で近所の里山を目指した。

農道を進むと奥に畑があった。畑の隅では、木の枝か何かが燃やされていた。
辺りを見回したが、夕暮れ時で周りに人影は見当たらない。
J氏は獲物をネズミ捕りごと火の中に突っ込んだ。

既に乾いているので、すぐに燃え尽きるだろう。
J氏は後ろを振り返らずに、家までペダルを必死に漕いだ。

数日後、J氏は息子から嫌な噂を聞いた。例の里山の畑で、夕暮れ時に、
炎に包まれた赤ちゃんが、ハイハイしているのを見た友達がいるのだと言う。
「バカな事を言うのはやめなさい。」と、妻が息子をたしなめた。

またしばらくして、息子が噂話を聞いた。炎の赤ちゃんは、
畑の手前の農道にも現れ、ウチの近くの道でも見た子がいるのだと言う。

この時、J氏は(ここに帰って来るんじゃないか。)と恐れ慄き、
いぶかしがる妻を説き伏せ、即日、荷物をまとめて家を出た。

後日J氏は、あの家が不審火で焼けたと知ったが、妻と息子には話さなかった。

一家は今、街中のアパートで狭さと喧騒に耐えながらも、安心して眠れる日々を送っている。