尻尾を切断された「それ」は、
「あるるるるるるるるるる」
と叫び声をあげ、森のさらに奥の茂みの中へと消えていきました。
正夫は暫くの間、呆然と立ち尽くしていましたが、タケルの苦しげな
「ハッハッハッ」
という息づかいを聞いて、我に返りました。タケルの首筋には、人間の
歯形そっくりの噛み後がついていました。

出血はしていましたが、傷は
それほど深くなく、正夫は消毒薬と布をタケルの首に当て、応急手当を
してやりました。何とか自力で歩ける様子です。モタモタしていると、
またあのバケモノが襲ってこないとも限りません。正夫はタケルと共に
急いで山道を下りました。やがて、正夫の山小屋が見えてきました。
ここからだと、正夫の村まで30分とかかりません。

安堵した正夫は、
さらに足を早めて村へと急ぎました。「変だな」と正夫が思ったのは、
山小屋から下って15分ほど経った時です。同じ道をグルグル回っている
様な錯覚を感じたのです。この山は、正夫が幼少の頃から遊び回っている
山なので、道に迷うなどという事は、まずありえないのです。言いしれぬ
不安を感じた正夫は、さらに足を早めました。

さらに15分経った時。
「そんな馬鹿な」
目の前に、さっきの山小屋があったのです。正夫は混乱しましたが、
「あまりの出来事に気が動転し、道を間違えたのだろう」と思い、もう
1度、いつもの同じ道を下りました。しかし、すぐさま正夫は絶望感に
襲われました。どうしても山小屋に戻ってきてしまうのです。
タケルも
息が荒く、首に巻いた布からは血が滲んでいます。正夫は気が進みません
でしたが、今日は山小屋に泊まる事に決めました。