翌朝、天気は晴れ。
年に何度もないほどの青空。
小屋では、救助隊が持ち込んだ警察無線を使い、
飛び立ったヘリコプターのために気象情報を流し始めた。
情報は、管制官を通じてヘリコプターに伝わるらしい。
やがて、ヘリコプターが救助に失敗し、
引き返したことを知らせてきた。
事故現場にだけ雲がかかり、地表の様子がまるで
見えないらしい。
転落した男は、元気とのことだが、嫌な予感がしてきた。
午後、男に付き添う救助隊員から、雲が薄れてきたという
知らせが入り、ヘリコプターが再び離陸した。
小屋では、再び気象情報を流し始めた。
あと数分で現場にヘリコプターが到着するという時、
現場周辺にだけ、濃い雲がかかり始めた。
現場からの情報では、雲が斜面伝いに湧いてくるという。
転落した男の意識は薄れ、言葉にも、肉体的刺激にも
ほとんど反応しなくなっているらしい。
この快晴、最悪のタイミングで現場にだけ雲が湧く。
無線を扱う小屋番と目が合った。
俺と同じことを思っているのだと、直感した。
生贄という言葉が、一番近いかもしれない。
どこかの誰かさんに、あの男を助ける気などない。
ヘリコプターは、燃料の残量が許す限界まで
現場付近を飛び続け、雲が晴れるのを待った。
やがて、虚しく引き返し、遠ざかるエンジン音を
聞きながら、男は最後の溜息をついた。
ヘリコプターの音が消え、雲が消え、
青空が現場に戻ってきた。
もはや救助ではなく、遺体回収作業となった。
男は救助隊員の背に縛り付けられ、小屋の前を通過する。
救助隊員の列の最後に、俺が続いた。
充分に助かるはずの怪我だった。
涙が、溢れた。