早朝、テントから手を出し、靴に手を伸ばした。
靴のかかとを地面に叩きつけ、逆さに振り、
中に手を入れ、何か入り込んでいないか確認。
最後に覗き込む。
山で靴を履く前の、習慣となった動きだ。
たいてい、何もない。
その時もそうだった。


靴を履き、立ち上がった。
ぷち、と何かが靴の中で弾けた。
ぷちぷち、と感触が続いた。
さらに何かが湧いたように感じた。
慌てて座り込み、靴を乱暴に脱いだ。
カメムシだ。
その臭いが、靴と足から発散した。
靴の中、大量のカメムシが、潰れて貼り付いていた。
のそのそ這い出してくるのも居る。


じっと眺めるうち、ため息が出た。
不可解なカメムシの出現に困惑し、その臭いに
困惑以上の思いを抱いた。
さっきは、確かに何もなかった。


ごめんね
子供の甲高い笑い声が、朝の湿った光の中に響いた。
声を追い、目を上げた。
子供の姿など、無論ない。
臭いだけは、間違いなくそこにあった。
うんざりして、明るい夏空を見上げた。