友人の実家の持ち山の中に、1本だけ、黄色い花の咲く梅の木がある。
黄桜より濃く、福寿草より淡い色のその花は、決して蝋梅などではなく、
柔らかなまろみを帯びた花弁も、気品溢れるその香りも、まさに梅以外の
何者でもない。


ただ、その在り処が定かではない。
毎年、山を見回りに行った親父さんが見つけるのだが、歩いている途中に
ふと出会い、一枝そっと折り取って来るらしい。
後から見当を付けて出向いてみても、何処にも梅の木なんぞ有りはしない。
その年の花が、大きければ畑の作物が、数が多ければ稲が豊作だと言う。


不思議な事に、持ち帰ったその枝を地面に刺して根付かせても、世間で
ありきたりの紅梅か白梅にしかならない。


その不思議な黄梅に、今年は友人が出会ってしまった。
たまたま休みに実家へ戻り、親父さんと山を歩いていた時に、どうした訳だか
はぐれてしまい、気が付けば目の前に、馥郁たる香を放つ満開の黄梅があった。
子供の頃から馴染んでいた不思議なそれとの出会いに、友人は感動し、手折る
事なく道を戻った。


はぐれた事にさえ気付いていなかった親父さんは、彼の話を聞いて一言
「世代交代、だな」そう寂しげに呟いた。


友人は、この3月一杯で都会を離れ、実家へ戻る。